NTTのドコモ完全子会社化は携帯利益率隠しの意図も
9月29日、NTTがドコモの完全子会社化を発表しました。現在NTTはドコモ株式の62.21%を保有しており、残りの約34%を4.2兆円をかけて買い取るということです。これだけの金額をかければNTTの財務内容が大幅に悪化しますので、簡単な決断ではなかったと考えられます。これを危惧しNTTの株価は5%ほど下落しています。
今でもドコモはNTTの支配下にあり、経営陣はほぼNTT出身者で占められています。従って、NTTの経営方針の下に経営されていたはずですが、どうもドコモがNTTの方針に従わなくなっていたようです。ドコモが上場したのは1998年で、22年しか経っていません。しかしその間にドコモの収益はNTTの半分以上を占めるようになり、ドコモの経営陣としては、NTTは俺らで持っているという自負が強くなって来たようです。
その様子が伺えた場面が2018年にありました。その年菅官房長官が「携帯料金は約4割値下げする余地がある」と発言し、その後NTTの沢田社長がドコモに対しドーンと下げろと指示したという報道がありました。しかしドコモが出してきた値下げ案は、4割値下げと歌いながら、それは家族契約に限られ、全体では殆ど下がらないものでした。これなどドコモはNTTの指示に従わないという意思が伺えました。こんな中菅官房長官や高市総務大臣は値下げの圧力を強めて行きました。NTTの筆頭株主は国であり、NTTは旧電電公社の流れを汲むことから公益事業のマインドが残っており、ドコモを放置することは難しくなったと考えられます。こうなると資本の論理でドコモの社長を交代させるしかありません。そこでNTTは今年6月の株主総会で、社長含みでNTTの井伊副社長をドコモの副社長に送り込みました。その後井伊副社長は、NTTの意向を受けてドコモ社内で料金値下げに動いたと思われますが、多勢に無勢で通らなかったと考えられます。その中で菅首相が誕生し、このままの流れは許されなくなりました。そこで一挙にドコモの完全子会社化を決めたと思われます。
ドコモは、携帯電話のシェアは約40%でトップでしたが、今年3月決算の営業利益では3番手に落ちていました。NTTとしては携帯料金値下げ已む無しの立場ですから、営業利益が減少することは仕方ないのですが、問題は通信収入以外の収入源が育っていないことでした。KDDIは通信収入減少を見越し、周辺サービス強化のためにM&Aを継続的に行って来ていました。ソフトバンクはソフトバンクグループ(SBG)の下で、利益は海外M&Aに使っていたのですが、2019年度に上場した後はLINEの合併やpaypay育成など大型投資を行いました。それに比べドコモは、周辺サービスが全く育っていませんでした。この結果、今のまま行けばドコモは、通信収入の減少に伴い営業利益が減少するのは間違いありませんでした。NTTがドコモの完全子会社化を決めた最大の要因はここにあると思われます。
NTTの完全子会社になったドコモの最大の課題は、1に通信料金を下げつつ通信収入を如何に増やすかということと、2に周辺ビジネスの拡大です。1については、KDDIのUQモバイルやソフトバンクのY!モバイルのような安い通信料金に応じた事業形態を設けることが考えられます。ドコモへの移管が予定されるNTTコミュニケーションは、OCNモバイルという格安携帯電話を販売しており、これを強化することも考えられます。しかしこれでは他社の後追いとなり、大きな成果は得られないと思われます。そこで光回線の販売のようにドコモは携帯回線貸しに徹し、販売は既存の格安携帯会社が行うという形態を採ることが考えられます。既存の光回線の販売会社も格安携帯の営業に使えるので、格安携帯契約の増加が期待できます。
このようにNTTのドコモ完全子会社化は携帯料金の値下げに繋がり、NTTグループの強化に繋がることは間違いないのですが、もう1つ隠された狙いがあります。それは菅首相が携帯電話値下げの根拠とする営業利益率20%を隠すことです。NTTはドコモの完全子会社化の後、NTTコミュニケーションとNTTコムウェアをドコモに移管すると言っています。これはドコモとNTTコミュニケーションおよびNTTコムウェアの合併を意味すると思われます。ドコモの総収入と営業利益は夫々4兆6,513億円、8,547億円、NTTコミュニケーションのそれは2兆2,058億円、1,036億円、NTTコムウェアは1,758億円、98億円であり、この3社が合併すると単純合算で総収入7兆0,329億円、営業利益9,681億円となります。その結果営業利益率は、ドコモ単独の場合18.3%に対し、3社合算では13.7%に低下します。これなら携帯料金を僅かに値下げすれば10%を切る利益率となり、儲け過ぎという批判をかわせます。NTTのドコモ完全子会社化にはこのような狙いが隠されていると考えられます。