豊臣秀長と藤堂高虎

この2人に関心を持ったのは、堺屋太一氏が逝去され、当時の菅官房長官が毎日新聞のインタビューで「私は堺屋さんの「豊臣秀長」という小説を読み、補佐役に徹した秀長があこがれの武将となった」という趣旨の発言をしているのを読んだからです。私は今から4年くらい前加藤清正について調べた際に秀吉など他の戦国武将についても調べたのですが、秀長に関する資料や読み物は全くと言ってよい程ありませんでした。堺屋氏の「豊臣秀長」についても読むべき本として引っかかってきませんでした。そこで堺屋氏の「豊臣秀長」を読んでみました。この本の冒頭堺屋氏も、秀長については史料が殆ど存在せず、書かれた小説もないため、書くのに困ったと述べています。そこで堺屋氏は秀長を、秀吉を陰で支えた名補佐役だったと規定し、秀吉の出来事の中で秀長が参加した場面では、秀長は補佐役として行動したものとして描いています。即ち、秀長の具体的行動から、秀長は秀吉の補佐役だったと結論付けるのではなく、最初に補佐役と規定して、そこから秀長の行動を想定しているのです。この方法は人物の描き方として問題があるのは誰だって分かります。しかし、調べて行くと方法は間違っていますが、結論は間違っていないようです。

そこで、よく分からない秀長の行動からではなく、秀長と行動を共にした人物の行動から、秀長の人物像を描けないかと考えました。堺屋氏の「豊臣秀長」に秀長の直属の家臣である藤堂高虎がよく登場することから、高虎の行動を追えば秀長像が見えてくるのではないかと考えました。高虎は75歳まで生き、藤堂家は1871年の廃藩置県まで藩主(藩知事)を務めており、高虎の記録は比較的残されています。そこで高虎の記録や書籍を中心に秀長との関わりを調べました。また秀吉などの戦国時代の武将の記録からも秀長や高虎に関する記録を収集しました。そして再構成したのがこの読み物です。これは一次史料に当たったものではないので学術書ではありませんが、秀長や高虎についての読み物がない中では、2人の出来事をほぼ網羅し、秀長の人物像を浮き彫りにしていると思っています。

この調査で分かった秀長像は、

  • 秀長は豊臣政権の鎹(かすがい)であった。
  • 秀長は秀吉の補佐役であると共に武将としても名将であった。
  • 秀吉の軍資金作りも担当しており、豊臣政権の金庫番でもあった。

というものです。堺屋氏の秀長像とはかなり違った秀長像が浮かび上がってきます。

次に藤堂高虎ですが、主君を7人も変えているところから歴史家の評判は芳しくありません。しかし足軽から始めて一代で大身大名となり、江戸時代には外様大名ながら譜代と同格まで上り詰めた人生は、現代のサラリーマンにとって織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の人生より参考になると思われます。高虎の成功のベースは、槍や鉄砲、水軍指揮、築城、城下町作り、検地や木材の管理技術など主君が必要とする技術を持っていたことにあります。これは同じく外様ながら金山・銀山の管理技術を家康に認められ、奉行にまで上り詰めた大久保長安と共通しています。長安は死後不正蓄財があったとして家族が処刑されていますが、高虎は妬(ねた)みから足を引っ張られないよう常に先手を打っています。見事なリスクマネジメントで、地雷原を歩き通した人生だったと言えると思います。

これを読めば高虎について現在貼られている「主君を7人も変えた変節の人」「風見鶏」「世渡り上手」「ゴマすり」などのレッテルが不当であることが分かると思います。

尚、菅官房長は堺屋氏の「豊臣秀長」を読んで、あこがれの武将は秀長になったと言っていましたが、これは誤った理解に基づくものです。菅官房長官は、堺屋氏の「豊臣秀長」の中で多用される「補佐役」という言葉に心を奪われたものと思われます。当時菅官房長官は安倍首相に仕えており、補佐役に徹しなければならない立場にありました。しかし安倍首相はあの通り総論の人であり、具体的なことは考えられない人でした。一方菅官房長官は各論の人であり、生活の中で実感できるような具体的な政策でないと意味がないと考えていたように思われます。即ち2人は水と油の関係であり、お互いに違和感が強かったと思われます。こんな中で菅官房長官は、この「補佐役」という言葉を毎日念じて官房長官の職務を果たしていたと考えらえます。この読み物を読めば、菅首相自身は豊臣秀長ではなく、藤堂高虎に近いことが分かります。例えば菅首相も派閥(担ぐ人)を数回変えていますし、お互い実務派です。違いは、高虎は天下を取れなかったけれど、菅首相は取ったということでしょうか。                                             以上

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