日銀保有国債500兆円が混同で消滅するカラクリ

2020年5月末の国債残高は987兆円で、そのうち日銀が500兆円(50.6%)保有しています。1993年12月末の国債残高は193兆円で、そのうち日銀保有は31.5兆円(16.3%)でしたから、日銀の保有額が膨張し割合が増加していることが分かります。それがどうしたの、と思う人もいるかも知れませんから説明すると、日銀以外で国債を購入しているのは銀行や生命保険会社、個人などであり、預金や保険掛け金などが国債に回っていることになります。しかし日銀が保有する場合は、日銀は自分の現金で国債を購入する訳ではなく、紙幣を新に印刷して購入する(国債の購入相手の銀行などに紙幣を渡す)ことになります。即ち、銀行などに日銀が印刷した紙幣が渡り、貸出などで街に出回るお金の量が増えるのです。従って財政専門家の間では、日銀が国債保有額を増やのすはインフレを招くから禁忌とされてきました。これを破ったのが安倍前首相のアベノミクスでした。第2次安倍政権が誕生したのは2012年12月ですが、この年末の国債残高は821兆円です。これが今年末には1,000兆円を突破すると言われていますので、8年間で約180兆円増えたことになります。そして日銀は国債の増加額以上に銀行や保険会社などが持つ国債を買い上げ、新しい紙幣を印刷し銀行などに供給したことになります。これだけ紙幣が増えればインフレになるのが普通なのですが、そうなっていません。どうも増えた紙幣は企業の内部留保や個人の預金となり、消費に回っていないようです。これがアベノミクスの一番の誤算、というより未熟な点だと思われます。米国のメジャーリーグでは年俸30億円を超える選手も見られ、日本のプロ野球とは大違いです。これは米国内のドルの流通量が多いことが背景にあると思われます。そしてアベノミクスはこれを真似て日本国内の紙幣の流通量を増やすことによって、売買単価や給与の水準を引き上げ、経済活動をかさ上げすることを狙ったものでした。その結果国債残高は1,000兆円を突破しますから、今の金融政策を元に戻すことは不可能です。即ち、日銀の500兆円の国債保有額は、増えることはあっても減ることはないことになります。よく国債残高をもって国の借金とする報道が見受けられますが、あれは間違いです。それは銀行や生命保険会社が保有する国債は国の借金ですが、日銀が保有する国債は国の借金ではないからです。それは借金というものを考えてみれば分かります。借金は、相手が自分の資金を貸し付けるものです。しかし日銀は自分の資金で銀行などから国債を購入したのではありません。紙幣を印刷しただけです。日銀が500兆円の国債購入のために使った資金は紙幣の印刷代だけなのです。日銀の帳簿上は銀行などに渡した500兆円の紙幣(日銀券)が負債となるのですが、この負債は取り立てられることはないと考えられます(紙幣の代わりになる資産がない)。従って国が国債を償還しなくても日銀は国に償還しろとは言いません。言ったとしても裁判を申立て、強制的に取り立てることはありません。それに財務省は日銀の出資口の55%を持っています。即ち、会社で言えば日銀は財務省の子会社であり、財務省の支配下にあります。連結決算をすれば財務省の日銀に対する国債債務500兆円と日銀の財務省に対する国債債権500兆円は相殺されて連結貸借対照表から消えてしまいます。この場合日銀のバランスシートでは、資産の部から500兆円の国債が消え、これに対応する負債の日銀券500兆円も消えることになります。日銀券500兆円は架空の負債だから問題ありません。

黒田日銀総裁が日銀保有国債残高の増加を恐れない理由はここにあります。日銀は今でも財務省の子会社の状態(支配下)にあり、いつでも100%の子会社にできます(日銀法を改正すればよい)。その結果完全に債務者(財務省)と債権者(日銀)が同一人となり、法律上混同で債権債務関係が消滅します。即ち、日銀保有の国債はいつでもなかったことにできるのです。これが日銀保有の国債をどんどん増やしているカラクリです。

このように日銀保有である限り国債をどれだけ増やしても返済上の問題はないのですが、それ以外の問題の発生が危惧されます。先ず考えらえるのはインフレです。日銀がどんどん紙幣を印刷することになりますから、街にお金が溢れていずれインフレになることが考えられます。しかし米国を見ればそれも杞憂かも知れませんし、日本の場合増えた紙幣が貯蓄に回り、インフレにならないことも考えれます。一番恐れられることは、このカラクリが世界に知られ、日本の信用がガタ落ちになり、円安が進み輸入物価の高騰によりインフレとなることです。やはり国際的信用の棄損が一番大きいように思われます。

参考)民法 第520条
債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は、消滅する。ただし、その債権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。

こちらのブログも参考に。債務者と債権者が同じという国債の不都合な真実

追伸)更に考えたら、国債が混同で消滅した場合、国際的には日本の信用制度の破綻とみなされ、円による国際決済が停止されるのではないかと思われます。円でドルなどの外貨を購入することもできなくなります。それは円の信用が崩壊するからです。なんせ500兆円(実際に混同で消滅させるときはもっと大きな金額)の債権債務が消滅するのですから、一国が破綻したのと同じ状態になる(国際社会はそう考える)と思われます。だから国内的には上手く国債を消滅させられても、国際社会はそうは問屋が卸さないということです。