債務者と債権者が同じという国債の不都合な真実

今回コロナ対策として国民一律10万円支給することとなった結果必要となる12兆円の原資は、税金ではなく国債であることは4月16日のブログで述べました。そして国債は国の借金ではあるが、その約半分(2019年度末で46.8%)を日銀が保有しているため、この分は返済を迫られることは無く心配無用なこと、財務省が国債は増やせないとうるさく言うのは、借金を返せなくなるからではなく、野放図な国債発行は「財政規律」を乱すためであることも述べました。

そのうえで、国債についてもう一つ知っておくべきことがあります。それは、日本の国債は日銀保有額が多いことから、債務者が債権者になっているという不都合な真実です。多くの人が「え、国債の債務者は国で、債権者は日銀だから、それはおかしい!」と思うと思います。もし日銀が三菱UFJ銀行や三井住友銀行のように独立した法人なら、その通りです。そのため国(財務省)は、日銀を独立した法人に見せかけるため、苦心惨憺しています。その最たるものが日銀をJASDAQに上場させていることです。「え、日銀って上場しているの?」と驚かれる人が多いと思います。ヤフーファイナンスで銘柄コード8301で株価を検索してみて下さい。ちゃんと日本銀行の株価欄が出て来ます。そして4月24日には200株成立し、株価は26,000円になっています。しかし良く見て行くと普通の会社なら掲示されている決算情報がブランクになっています。これだけでも十分おかしいと思うと思います。

日銀は普通の公開会社のような会社法に基づく株式会社ではありません。日本銀行法という特別法に基づき設立された認可法人です。資本金1億円ですが、株式ではなく出資口数で集められています。出資口数では持ち分割合が重要ですが、日銀の出資口数の55%は財務省が持っています。その他の45%は個人となっています。株主総会に代わり出資者総会があるようですが、議決権はないようです。やっているのかどうかも分かりません。出資者の経営参加は禁止されており、配当も資本金の5%(500万円)に制限されていますから、出資口は定期預金のようなものとなります。日銀は多額の国債を保有しているから、その金利収入(2018年度経常利益は約1兆2,000億円)で内部留保が蓄積し、1口当たりの純資産(残余財産配分)が巨額になるだろうと思いますが、日銀は運営に必要な経費と配当を差し引いた利益は国庫に納付することになっており、利益が蓄積することはありません。

このように外部出資者としてのメリットは配当だけとなります。これでは営利法人ではなく、普通なら株式公開申請しても認められることはありません。公開適格がないのです。それが認められた(1983年)のは、証券業界が財務省(公開当時は大蔵省)の管轄下にあり、大蔵省が公開を認めよと迫ったからだと思います。では何故そこまでして大蔵省は日銀を公開会社にしたかったのでしょうか?それは日銀が外形だけでも独立した法人でないと困るからです。日銀には設立当初から国債を保有する役割が予定されており、そのためには日銀が政府から独立した法人でないと困るのです。政府と一体ならば、国債の発行者(債務者)が国債の引受人(債権者)となって、債務者と債権者が同じ主体になってしまうからです。そのため日銀を無理やり公開させて債務者(国)から独立した主体と見せかけているのです。でも実際は、日銀は完全に財務省のコントロール下にありますから、独立主体とは言えません。

国の財政を賄う収入は、主に税金と国債になります。2020年度予算を見ると税収64兆円、国債33兆円となっています。そして税金の徴収は財務省の下局である国税庁で行われています。下局と言っても内局と同じ扱いです。ならば国債発行も財務省に国債発行局をおいてそこで行えばよいことになります。国債が個人や銀行や生保など金融市場参加者だけで引受けられ、保有されている状態が理想的です。しかし市場に資金を供給するため、国債を購入する必要がある場合も起こりますが、財務省に国債買入(保有)局を作る訳にはいきません。これでは債務者と債権者が全く同一主体となって経済原則が破綻してしまいます。だから、国債買入(保有)局を外部に出して、独立した主体とする必要があるのです。それが日銀です。

日銀を独立した主体とするため公開会社とするなどいろいろ偽装されていますが、財務省(国)と一体であることは隠しようがありません。このまま日銀の国債保有残高が増大すると、この実体が世界中で認識され、日本および円が信頼されなくなってしまいます。そこで財務省としては、日銀保有(引受)額を大きくしない必要があり、予算編成の度に国債の発行を抑えるよう、増税を実施するよう政府に迫ることになります。国の信頼や永続性を考えるともっともな姿勢です。

日銀が保有する国債は、返済を迫られることはなく、この点では恐れるに足りないのですが、債務者が債権者であるということも事実であり、節度が求められます。理想は毎年の予算は税収で賄い、今回のコロナや将来予測される関東大震災などの際には、日銀が買入れる条件でいつでも100兆円くらいの国債を発行する(日銀が市場から買入れ保有する)余地を残しておくことだと思われます。

(4月27日午前の金融政策決定会合後日銀は、年間80兆円としていた国債購入枠を撤廃したと発表しました。)

こちらもご覧ください。「日銀保有国債500兆円が混同で消滅するカラクリ」

日銀の決算書に基づく考察はこちらから:日本銀行の決算書から国債の真実が分かる

また国債大量発行の根拠となっていると思われる現代貨幣論についての考察はこちらから。

現代貨幣論は財政破綻国家の救済理論」