メーカーの本社は主力工場がある地方に移転した方がよい

コロナで在宅勤務が盛んとなり、コロナ収束後もオフィスに行かない勤務形態が増えると思われます。同時に会社の本社が東京にあることが見直される傾向が出て来るのではないでしょうか。昨年9月には人材派遣大手のパソナが本社を淡路島に移転することを発表しましたし、同じく昨年11月にはジャパネットたかたが本社機能の大部分を福岡市に移転することを発表しました。これは社員の生活コストを考えた選択だと思われます。東京での生活となると、満員電車に揺られ、1時間以上の通勤時間が普通です。さらに家賃が高く、住宅を購入するとなると、一生の稼ぎの多くを費やすこととなります。一方地方に移転すれば、通勤時間は東京の半分以下となり、住宅価格も半分以下となります。これを考えると生活コスト的には圧倒的に地方が有利です。問題は東京に本社があった場合と競争力を落とさないで仕事ができるかということです。現在のようにインターネットやパソコンを使った業務形態が主流になると、東京と地方で仕事の質は変わらないと思われます。問題は高い競争状態を維持できるかどうかです。地方の場合、学校は公立学校が中心であり、優秀な生徒は中学校から私立に行く東京と大きな差があります。この差は高校、大学に進むにつれ拡大し、社会人としてのスタート時点で大きな差がついています。東京の大企業が生き残って行ける源泉は、東京の競争的な人材を選抜していることです。地方に本社があると採用する人材の質で劣り、入社後の競争の質でも劣ると考えられます。その結果、東京で働いた人と地方で働いた人の実力に大きな差が生じ、それが企業力の差になると考えられます。これを克服できれば、地方に本社があっても強い企業力を維持できます。

パソナやジャパネットたかたのような人材派遣や通信販売では都会で育った、或いは生活していた経験がプラスに働くと思われ、東京本社と地方本社の差は埋めがたい感じがします。

むしろ本社を東京から地方に移した方がメリットが大きいのはメーカーではないでしょうか?メーカーの事業の中核は工場にあり、主要工場は地方にあることが多いと思います。メーカーの社長や経営幹部の多くはその地方工場勤務経験者であり、幹部としての根幹は工場で培われています。東京本社勤務となって付加された価値は少ないと思われます。むしろ東京本社勤務となったことで現場感覚や実践感覚が低下した人が多いのではないでしょうか?こういう点でメーカー経営幹部の東京本社勤務はマイナスの面が多いように思います。

そこで思い出されるのが京都に本社があるメーカーです。日本電産、京セラ、村田製作所など世界的にも有名なメーカーが多く、発展を続けています。この発展の源泉は本社が京都にあることだと思われます。もし本社を東京に移転していたら、今の発展はなかったように思われます。京都には1000年間朝廷が置かれ日本の中心だった歴史があり、古い歴史や文化がたくさん残っています。これらはいずれも当時最高の英知で作り上げられたものであり、今の時代においても評価の基準になりうるものです。そのため、京都のメーカーは要求水準が高くなっており、京都はメーカーが本社を置くには最高の場所と言えます。

京都とはまた違った観点からメーカーが本社を置くのに良い場所が愛知県です。トヨタを中心とした自動車関連企業の他日本ガイシ、カゴメ、ブラザー工業、星崎電機、オーエスジー、ミツカンなど多彩なメーカーが本社を置いています。そのため目標とするメーカーが身近に存在し、良いメーカーに発展する環境があります。

メーカーが本社をおいて良い県としては京都府と愛知県が2強だと思います。大阪にはパナソニック、シャープ、ダイハツなど東京と並びメーカー大企業の本社が多いですが、衰退気味の企業が多く、どちらかと言うと東京と同じくメーカーの本社を移転した方が良い地域です。

メーカーが本社を地方に移転する場合としては、日立製作所が茨城県へ、三菱重工が愛知県へ、コマツが石川県へ、ブリジストンが福岡県へ、日本製鉄が愛知県へ、サッポロビールが北海道へなどが浮かびます。こうして考えて行くと東京に本社がある有力メーカーが少なくなっているように思われます。むしろ京都府や愛知県の方が元気なメーカーが多いのではないでしょうか?

メーカーが本社機能の一部を主力工場がある地方に移した例としてYKKがあります。2015年北陸新幹線の開通と黒部駅の新設に伴い、主力工場の黒部工場に本社機能の一部を移しました。営業部隊は東京が便利であり、本社機能の完全な黒部への移転はないと思いますが、企画・開発・購買などメーカー機能の主要部分は移転すると思われます。こうい言う形の移転は合理的であり、メーカー生き残り策として今後進むことが予想されます。