検察は期待できないけど検察審査会がある

4月23日の毎日新聞に、関西電力の歴代幹部による役員報酬の補塡や金品受領問題で、大阪地検特捜部は、会社法の特別背任などの疑いで告発された八木誠前会長らの立件を見送る方向で調整に入った、との記事がありました。いずれも関電に損害を与える不正の認識はなく、刑事責任を問うことは困難との判断だそうです。

報酬補塡問題は2020年3月、関電の第三者委員会の調査で発覚し、東日本大震災後の経営不振で電気料金値上げと役員報酬の減額を進める中、当時の森詳介会長は退任役員を嘱託として任用し、この報酬名目で過去のカット分を補う仕組みを主導して発案し、当時の八木社長らと協議しただけで取締役会に諮らず決定し、森氏を含む元役員計18人に2016年7月以降計約2億6,000万円が支払われたというものです。関電を巡る一連の不祥事の中で悪質性が高い問題として、八木、森両氏らは会社法の特別背任容疑で告発されました。同容疑は、取締役らが自己や第三者の利益を図る目的で、職務に背いて会社に損害を与えることが成立要件になりますが、森氏らは、嘱託報酬は元役員の経験や人脈を生かした業務に対する正当な対価だと主張しているということです。業務は実態を伴っており、特捜部は役員報酬の補塡のみを目的とした仕組みとは言い切れず、関電への損害の立証も困難と判断しているということです。

この記事は、不起訴を正当化するために大阪地検から毎日新聞にリークされたものと思われます。森氏が18人の元役員を嘱託として採用したのは、過去の報酬カット分を補填することが目的であり、そのために業務を与えています。この目的が無ければ嘱託として採用しておらず、業務は後付けです。本来必要のない人を採用し、報酬を支払ったことになり、一般の採用業務ではあり得ません。またもしこれらの役員の経験が必要な業務があったとしても18人も採用することは有得ません。18人も採用したことが損失補填の目的を如実に表しています。

これは取締役の忠実義務に著しく反する行為であり、関電を巡る一連の不祥事の中で悪質性が高い問題として会社法の特別背任容疑で告発されたのも尤もです。そして検察は特別背任で起訴すべき内容です。検察は関西電力の会長や社長を務めた人の経歴に傷を付けなくないと言う配慮から、いろいろ理屈を付けて不起訴にしようとしていると思われます。大阪地検特捜部と言えば、安倍政権時の森友事件で、佐川財務相理財局長の指示で近畿財務局が国有地を森友学園に払い下げた経緯を記した議事録を改ざんしていた事実を掴みながら、不起訴処分としました。その際には安倍政権から不起訴処分とするような働きかけがあり、大阪地検はその圧力に抗しきれず、首謀者の佐川局長は辞書する、改ざんした議事録は全面公開する、監督責任があった財務省幹部は処分するなどの条件を付けて政治決着を図ったものと思われます。しかしこれは刑事処分を不当に捻じ曲げたものであり、その後日産ゴーン会長(当時)の逮捕という東京地検特捜部の暴走に繋がりました。またこれ程明確な犯罪行為が不起訴処分となったことから、公務員は起訴されないと言う誤ったサインとなり、公務員の接待汚職を生みました。そして本件は自殺した近畿財務局職員の遺族が財務省と佐川局長を民事提訴し、今なお係争中です。

この経緯から考えると、今回は菅政権から不起訴にするようにとの働きかけがあったのかも知れません。だとすれば大阪地検が不起訴処分とするのも納得です。大阪地検には正義は期待できません。

大阪地検が不起訴処分としても、この事件は検察審査会に審査請求され、検察審査会は起訴相当議決を行う可能性が高いと思われます。森友事件の際には、佐川局長(当時は国税庁長官)を辞職させ、改ざんされた議事録は全面公開するなど裁判を受けたのと変わらない状態を作り上げたことによって、検察審査会の議決は不起訴不当に留まりました。これは大阪地検のシナリオ通りだったと考えられます。しかし今回の事件は、このような実質的処罰はなく(森会長や八木会長は辞任していますが、その原因は高浜原発がある高浜町の元助役から金品を受領したことの責任をとって)、検察審査会の議決は、不起訴不当ではなく、起訴相当議決になる可能性が高いと思われます。

検察審査会は、昨年12月には黒川元東京高検検事長の賭けマージャン事件に対する東京地検の不起訴処分に対して起訴相当議決を行い、今年3月には菅原一秀衆議院議員に対して東京地検が行った不起訴処分に対して起訴相当議決をしています。共に市民感情に照らして妥当な議決です。関電事件で大阪地検が不起訴処分を行えば、検察審査会が起訴相当議決を行い、政治化した大阪地検の姿勢を正してくれそうです。