川本裕子人事院新総裁に改革して欲しいこと

6月23日付で人事院の新総裁に川本裕子早大大学院教授が就任するという報道です。川本氏は以前テレビの経済番組にコメンテーターとして出演しており、金融の専門家として知っていました。今回人事院総裁就任の報道に接し、改めて川本氏の経歴を調べたところ、早大教授の次にマッキンゼー勤務が長いようなので、公務員制度改革を期待した人事と思われます。

昨年の国家公務員試験の結果東大出身者が2000年の31.9%から2021年には14.0%に減少し、今年の国家公務員総合職の受験者数が昨年比14.5%減少するなど、国家公務員は不人気化しています。その結果入省者の質も低下し国会に提出された法案にミスが続出しています。法案チェックは入省年次の若い職員の仕事であり、最近入省者のレベルが著しく低下していることが伺われます。この理由については、長時間労働が慢性化していることが言われていますが、それよりも安倍政権や菅政権で幹部官僚が国会で平気で嘘を言う(財務省の佐川局長、経済産業省の柳瀬審議官)、違法な定年延長に応じる(黒川東京高検検事長)、利害関係先から接待を受ける(総務省の谷脇審議官、山田広報官)など官僚になっても碌な人間にはならないと思わせる事件が続いたためと考えられます。マッキンゼー経験者で競争社会の真っただ中にいた経験のある川本氏の人事院総裁就任は、早大出身で若手官僚の退職増加に危機感を持つ河野行政改革大臣の推薦と思われます。従って川本新総裁は、思い切った公務員制度や人事制度改革を仕掛けてくると考えられます。

私は2点につき、川本新総裁に改革を期待します

1つは、人事院は毎年公務員の賞与支給月数と給与ベースにつき勧告を行っています。昨年は10月に、2020年度の公務員の年間賞与について、昨年冬の民間賞与と比較した結果わずかに公務員が高くなっているので、0.05%引き下げて4.45%にすることが妥当であるという勧告を出し、その後給与については据置の勧告を出しています。しかし、勧告が出された時期民間では夏の賞与0(ANA、JAL)や大幅引き下げ(JR各社など)が相次ぎ、この勧告はわずかの引き下げを装っただけの実質昨年並みという勧告でした。これは政府により任命された人事官が人事院と言う公務員組織に取り込まれていること、および人事院勧告に当たり財源を全く考慮していないことが原因になっていると考えられます。特に財源については、民間企業で支給額決定の根拠となるものであり、それは国家公務員でも変わらないと考えられます。昨年10月時点で2020年度の税収は10~20%の落ち込みが予想されていましたので、財源を考えれば0.05%減というような勧告は有得ませんでした。これでは家庭で子供が親の収入を考えずに「小遣い上げて」と言うのと同じです。それに人事院という公務員組織が賞与および給与の勧告を行い、それを政府が尊重する制度は、会社の労働組合に賞与および給与の決定権を与えているのと同じことです。

人事院の勧告を政府が尊重するのなら、人事院勧告の中身は財源を吟味して検討されるべきだし、それをしないのなら政府は人事院勧告に縛られることなく、財源を検討して独自に決定すべきです。このどちらかにする必要があります。

2つ目は、公務員の不祥事に対する処罰が形骸化していることです。2018年3月、森友学園事件において大阪地検特捜部の捜査の結果、佐川財務局長の指示により土地取引にかかる議事録が改ざんされていることが分かり、昇格していた佐川国税庁長官は辞任、その他監督責任があった財務省幹部や関係職員10数名が処罰を受けましたが、ほどなく全員昇格しています。要するに痛くも痒くもない処罰になっているのです。これでは処罰と言えないし、不祥事抑制効果もありません。民間では一度処罰があるとほぼ挽回不可能なほどの効果を伴います。だから不祥事が抑制されます。公務員の処罰の実効性の無さは、公務員の身分保証制度の悪用です。公務員の不祥事対する処罰は民間より厳しいのが当然です。ルール違反をしないかぎり公務員の身分は保証されるけれど、ルール違反は民間より厳しく処罰されるべきです。

川本新人事院総裁ならこれらの主張の合理性は理解して頂けると思いますので、改革を期待します。