日本銀行の決算書から国債の真実が分かる

日本銀行の2021年3月期(2020年4月~2021年3月)の決算書を調べて見ました。

貸借対照表(B/S)を見ると、総資産は714兆円(1,000億円以下切捨て)となっています。最大の資産は国債532兆円です。それ以外に大きいのは貸付金125兆円、金銭信託(ETFなど)35兆円となっています。これらの資産を調達した原資は、負債勘定の預金549兆円、日銀券116兆円、資本勘定の資本4兆円などになります。預金は企業のおいては資産ですが、日銀においては返還する必要があるので負債となります。預金549兆円のうち522兆円が当座預金となっており、これは銀行を中心とした金融機関が預金の払い戻しや取立てなどに備えて預金の一定割合(預金ごとに0.05~1.5%)を日銀に預け入れることが法定されている預金準備金と銀行が銀行間や政府、企業などとの決済のために預け入れておく資金の合計で、原則無利子となっています。ただし、当座預金は預金準備金と見做されることになっており、金融機関はある決まった時点で預金準備金以上の当座預金を日銀に置いておく必要があります。従って、当座預金と言えば一般的には流動性が高い資金ですが、日銀に置かれた当座預金は安定的に存在するので、日銀にとっては固定資金と見做すことができます。

これを見ると国債532兆円の購入に使われたのは、日銀の預金549兆円であり、当座預金522兆円は全額が充てられていると考えることができます。日銀券116兆円も使われているという見方もできますが、そうなると財政法5条で禁止されている国債の日銀引き受けと変わらなくなるので、そういう説明はできないと思われます。日銀券116兆円は、コロナで資金繰りが苦しい企業へ融資するよう日銀が銀行へ貸し付けた貸付金125兆円(政策金融であり焦げ付いた場合返済免除になると思われる。またこれに基づき銀行が企業に融資した結果増えた預金に対する預金準備金の積増しについては、日銀は0.2%の金利を付けている)の原資となっていると考えるのが妥当です。ということは、国債の日銀買入は原資の預金が549兆円であることから、そろそろ限界に達していると思われます(5月末の日銀保有国債残高は約545兆円)。これだけ日銀が国債を買入れた結果、市中の国債が減少し取引に支障が生じているとも言われるので、新に発行される国債の消化には問題ないはずです。もし国債を日銀が買い入れる必要性が生じた場合には、現在預金準備金を超える当座預金に付しているマイナス金利(-0.1%)をプラス金利にすれば、運用先のない銀行から資金が流れ込み、当座預金は増加しますので、増加した当座資金を国債の買い入れに充てることになると考えられます。

この決算書を見るまで私は、国債は日銀が紙幣を印刷して購入しているとばかり思っていました。一方そうだとすれば紙幣が500兆円以上国債償還資金として民間に流れ、インフレになるはずなのになっていないな、という疑問は持っていました。日銀の決算書を見ると日銀は銀行から預かった当座資金の運用として国債を購入していたことになります。利子の付かない当座資金の運用としては十分ありうることです。しかし当座預金を原資として購入された国債については、日銀は国の機関であるため国(財務省)が償還したことと同じ効果となり国の償還義務はなくなりますが、日銀には当座預金の返還義務が残ります。この当座預金の返還義務が生じた場合、日銀は財務省に国債の償還を求めるか、日銀券を発行して当座預金を返還することになります。日銀券を発行すると言っても紙幣を印刷するのではなく、帳簿上日銀券が計上され、これも帳簿上現金が銀行に振り込まれるだけのようです。財務省がこれだけの資金を償還するのは、例え国債を発行しても不可能なので、日銀が日銀券を発行して当座預金を返還することになります。実際には当座預金の預け入れ義務(準備預金制度)が無くならない限り、これは起こりえません。また日銀券を発行して当座預金を返還する場合でも、当座預金の資金が銀行に戻るだけで、銀行で貸出を増やさない限り資金は市中に流出しないので、インフレになる可能性も低いと思われます。従って最終的には、日銀買入の国債は全額(532兆円)日銀が日銀券を発行して償還することとなります。その結果日銀のB/Sには、資産の部に国債532兆円が計上され、負債の部に日銀券532兆円が計上されますが、日銀券には銀行から預かった当座預金のような返還義務はなく、最終的には国債と日銀券が相殺処分され消滅することになります。

この結果、日銀買入の国債については、将来償還の問題は生じず、日銀が買入れた時点で国の借金ではないと言って良いと思われます。

6月3日に「国債の真実-日銀保有国債545兆円は日銀買入時点で償還されている!」と言うブログを書きましたが、内容が間違っておりましたので、削除しました。たぶん今回の理解で間違っていないと思います。6月3日のブログは、内容は間違っていましたが、結論は同じとなります。

最後に参考のため日銀の損益に触れると、経常収益2兆4,191億円、経常利益1兆9,764億円、法人税・住民税2,338億円、当期剰余金1兆2,191億円となっています。日銀もちゃんと税金を払っているのには驚きです。日銀は国の機関であり、税金を納めなくても剰余金は財務省に納めることになっていますので、意味ないです。どこまでも日銀は国や財務省から独立した法人であると偽装したいようです。日銀は国の機関であり、国の一部です。そう考えれば、「日銀所有国債545兆円は日銀買入時点で償還されている」という意味が分かると思います。

日銀の決算書はこちら https://www.boj.or.jp/about/account/data/zai2105a.pdf