研究基金の特許関連収入は非課税とすべき

11月12日、京大本庶特別教授と小野薬品間で争われていたガン免疫治療薬オプジーボの特許関連収入を巡る訴訟が和解に達したと言う報道がありました。和解により小野薬品は本庶教授に50億円、今後作られる「小野薬品・本庶記念研究基金」に230億円支払い、以降毎年売上の1%の特許料を支払うと共に相当の寄付を行うということです。これは日本の大学および研究者にとって2つの意味で歴史的出来事と言えます。1つは、本庶教授個人に50億円が支払われることです。通常会社において特許を取得すれば貢献があった社員には会社の規定によって報奨金が支払われますが、その額は数十万円から数百万円が多いと思われます。青色半導体レーザーを開発し2014年にノーベル物理学賞を受賞した元日亜化学の技術者中村修二氏がこの特許報酬を巡って日亜化学を訴えた裁判では、第1審の東京地裁は200億円の対価支払を日亜化学に命じましたが、第2審の東京高裁では日亜化学が約8億4,000万円を支払うことで和解が成立しています。東京地裁の200億円の支払い命令が東京高裁で約8億4,000万円支払いの和解に変わったことは奇妙ですが、裁判後中村氏が「日本の司法は腐っている」と述べたことから、東京高裁の判断が反映された和解であったと思われます。たぶん組織に所属する個人の特許褒賞としてはこれが日本最高額だと思われますので、同じく大学という組織に所属する個人である本庶教授への50億円の支払いは破格と言えます。大学の研究者にとっては励みになると思われます。しかしこれは特許の報酬というよりオプジーボの特許を侵害しているとして小野薬品が米国メルクを訴えた裁判に本庶教授が協力した対価と考えた方がよさそうです。と言うのは、この裁判には本庶教授の協力が不可欠であり、小野薬品が本庶教授に協力を要請する際に「賠償金の40%を支払う」という口頭の約束をしていたことがこの金額の元となっているからです(小野薬品はこの裁判に勝訴し、メルクは約700億円の賠償金を支払うこととなった。今回小野薬品が本庶教授および研究基金に支払う280億円は、この約束の700億円×40%であり、これを本庶教授50億円、研究基金230億円に分けている)。

本庶教授の50億円は置いといて、小野薬品から今後設立する研究基金に230億円が支払われ、その後毎年オプジーボ売上の1%の特許料支払いと相当の寄付がなされることから、この研究基金で長期にわたり研究を継続する体制が整ったことになります。私は当初この研究基金では年間の運営費は特許料(1%×1,000億円=10億円)と寄付(妥当な特許料との差額と考えられるので少なくともオプジーボ売上の2%として20億円)で賄え、230億円は特許料が切れた(この特許の有効期限は2031年)後の運営費に充てられることになり、この研究基金は20年以上存続できると考えていました。しかし今の税制ではそうならないようです。280億円は小野薬品と本庶教授個人の訴訟支援契約の報酬であり、受け取る側には所得税と住民税がかかると考えられます。従って本庶教授が受け取る50億円には所得税45%と住民税10%、計55%が掛かり、手取り額は22.5億円となります。これは仕方ないとして問題は研究基金に支払われる230億円の取扱いです。280億円は小野薬品と本庶教授個人間の契約に基づく支払いであり、本来なら全額本庶教授に支払われるべき金額です。230億円をどういう理屈(契約)に基づいて研究基金に支払うかが問題となります。また研究基金に支払われる場合でも研究基金の営利収入として課税されると考えられます。だとすると研究基金に残るのは230億円から税金を引いた金額となります。また毎年の特許料についても課税されることになると考えられます。これでは研究に使える金額が大きく減少します。

ここで問題になるのは、研究基金のような収入が全額研究に投じられる組織・団体の特許関連収入に対して、法人や個人の収入と同じように課税することです。現在大学の研究費は国からの予算で賄われていますから、今回のような研究基金の特許料収入に課税して国が吸い上げれば、その何十分の1しか大学の研究費として帰ってきません。日本の経済は30年以上停滞を続けており、その原因は研究開発力の低下にあります。国もやっとそのことに気付いて大学の研究に使う10兆円規模の研究基金を作る計画があるようです。ならば同時に今回のような研究基金が得る特許料収入などは非課税とする法制度が必要です。(自民党の高市政調会長や甘利前幹事長に訴えるのが効果的だと思います)