司法試験の受験回数制限は憲法違反!

数年前大学医学部入試で3回以上の浪人(多浪)受験生や女子受験生が合否判定において不利な扱いになっていたことが問題になりました。報道ではけしからんと言う論調が多く、そのような制度を採っていた医学部の多くが見直しを行ったようです。この際多くの医学部では第三者委員会を設けて実態を調査しましたが、第三者委員会の委員長には弁護士が就任するケースが大部分でした。弁護士は依頼人の利益になるように弁護するのが仕事であり、医学部の依頼を受ければ医学部の利益になるような結論に導くことになりますから、本来的にはふさわしくないと考えられます。

それ以上に弁護士資格が与えられる司法試験制度では受験回数を5回に制限していることから、法曹界も問題となった医学部と同じことをしていると言え、これからメリット受けている弁護士が第三者委員会の委員長になることには問題があると言えます。

医師、薬剤師、公認会計士、税理士、弁理士などの資格を見れば分かるように、その資格の取得に関して受験回数に制限を付けているものはありません。従って何回も受験してこれらの資格を取得した人がたくさんいます。何回も受験していると年齢が高くなりますので、その資格を生かす職業に就けなくなることがあるでしょうが、それは本人もある程度納得できます。

しかし司法試験では受験回数を5回に制限し、弁護士になるチャンスを奪っているのです。憲法は第22条第1項において「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択 の自由を有する。」 と規定しており、これは自己の従事する職業を決定する自由、自己の選択した職業を遂行 する自由、すなわち「営業の自由」が含まれるものと解釈されています。司法試験の受験制限は弁護士になる道を閉ざすことになり、これは憲法22条1項違反となります。弁護士は医師ほど社会的に重要なでもなく、公認会計士や弁理士に近い近いと思われます。医師資格でも受験回数制限を設けていないし、公認会計士や弁理士資格でも受験回数制限を設けていないのに、弁護士資格だけ受験回数制限を設ける合理的理由は見当たりません。弁護士試験では法科大学院制度によって設けられた合格者約3,000人が今では約1,500人に引き下げられています。これは建前としては弁護士の質を確保するためとなっていますが、実際は競争を少なくし弁護士の収入を確保するためであることは明確です。他の士業においては、基準をクリアしたら資格は取得できるけれど職業にできるかどうかは別として、憲法の職業選択の自由を尊重しています。弁護士資格でも米国では弁護士試験の合格率が60~70%となっており、資格と職業と出来るかは別の制度となっています。

日本の司法試験制度でも合格者数の制限は法曹の質の確保を理由としてまだ許されるかも知れませんが、受験回数の制限は他の士業資格に同様な制限がないことから許されず憲法違反なのは明確です。このように日本の法秩序を守ることを使命とする法曹が最も憲法を無視している事実に注目する必要があります。最近弁護士、検察官、裁判官に対する国民の信頼が落ちていますが、そもそも法曹の入り口である司法試験制度が憲法違反であることを考えると、当然の状態と言えます。(もし法曹界が合憲という自信があるなら、司法試験の憲法問題に「司法試験制度の受験回数制限は憲法22条1項に照らし合憲といえるか」という問題を出して欲しいと思います。)