自衛隊は「show the flag」から脱却するとき

ウクライナ避難民に支援物資を届けるために自衛隊の輸送機を派遣する計画が経由地のインドの受け入れ拒否で見直しを余儀なくされたという報道です。

政府の計画では、インドのムンバイとアラブ首長国連邦のドバイにある国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の備蓄倉庫で保管中の難民支援物資を、自衛隊のC2輸送機でウクライナ周辺のポーランドとルーマニアに運ぶことになっていました。これに対してインド側から4月20日夜に突然、自衛隊機の着陸を認めないとの意向が示されたと言うことです。

報道によるとこれまで了承していたインドが突然撤回したような印象ですが、実際は日本側が事前にインドの了承を取り付けていなかったものと思われます。というのは、インドはロシアから多くの武器を購入するなどロシアとの関係が深く、ロシアのウクライナ侵攻に対しても国連での非難決議に棄権するなどロシアと対立しない姿勢を採っていました。これを考えると避難民への支援物資輸送と言えどもロシアと対立するグループに属する日本の軍用機がウクライナ支援のためインドの空港を使うことを認めないことは、十分予想されました。このような状況では事前にインドの了承を取り付けてから計画を公表するのが定石ですが、日本側は米国やNATOに日本の貢献をアピールするためにインドの了承を取り付ける前に計画を公表したものと思われます。

この報道に接したとき、2021年8月に日本人や日本の機関に勤務するアフガニスタン人を避難させるためにアフガニスタンに派遣された自衛隊機が任務を果たせず帰国した出来事が思い浮かびました。これはアフガニスタン国内に住む避難希望者が空港まで行く手段を確保していたなかったためであり、避難作戦としては片手落ちでした。隣国韓国は現地大使館と韓国軍が協力してタリバンや米軍と折衝し、韓国関係の避難民が無事に空港まで行く手段を確保していました。日本側はこれを怠ったのです。

今回のウクライナ支援物資輸送作戦にはアフガニスタンでの失敗の経験が全く生かされていないように思われます。というより、日本側には米国やNATOに対して日本は貢献しているというアリバイを作ればよいという考えがあるように見受けられます。これは1990年の湾岸戦争に際して日本は米国から「show the flag」と貢献を求められ、資金を拠出して貢献のアリバイを作った以来の伝統です。湾岸戦争の際には戦争終結後平和維持部隊として自衛隊が派遣されましたが、この任務には作戦完遂はありません。そこから海外への自衛隊の派遣は、日本政府にとっても自衛隊にとっては「show the flag」のアリバイ作りになったと思われます。

ウクライナ戦争を見るとロシアは容赦なくウクライナの都市にミサイルを撃ち込んであり、ロシア兵はたくさんの民間人を殺害しています。そこには軍隊は実力行使を任務とすることを冷酷に示しています。今の自衛隊のように非軍事業務でさえ結果を出さない組織が軍事業務で結果を出せるとは思えません。自衛隊は災害派遣業務など実力行為を伴わない業務を取り去り、実力行使が必要な場面で力を発揮できる組織にする必要があるように思われます。