安倍元首相の能天気発言が止まらない

ロシアのウクライナ侵攻後、安倍元首相の発言が岸田首相より話題になっています。先ず2月27日、日本もNATO加盟国と同じように米国の核兵器の共有(シェアリング)を検討すべきだと言い出しました。これはロシアのプーチン大統領が核兵器の使用も辞さずと脅したことに呼応したものでした。しかし核シェアリングは相互防衛義務を負う国同士だから出来ることであり、日本のように米国に一方的に守ってもらう関係では実現しないことは明確でした。だから先ず検討すべきは、日米安全保障条約を日米相互防衛条約に発展させることでした。このように正しい手順を踏まなかったため核共有と言う言葉が独り歩きし、結局雲散霧消、安全保障の議論が深まらない結果となりました。

次に3月31日には米国シンクタンクのオンラインイベントで、米政府が台湾有事で介入するかどうかを明らかにしない「戦略的曖昧さ」を維持していることについて、「最初から米国の関与を明確にする時期が来た」と述べ、見直しを呼び掛けました。米国は日本と同じように台湾が中国の一部であると言う認識を受入れて中国と国交を回復しており、台湾有事(中国が台湾統一のため軍事侵攻する)の際には武力介入すると明言できるはずがありません。これを明言せよと主張するのは、子供並みの思考と言えます。

4月3日の講演では、政府が保有の是非を検討する敵基地攻撃能力について「基地に限定する必要はない。向こうの中枢を攻撃することも含むべきだ」と述べています。まだ敵基地攻撃能力の保有についても政府与党内でコンセンサスが取れていない中で、中枢機能攻撃能力への拡大を主張すれば、敵基地攻撃能力の保有についての合意も得られなくなってしまいます。核共有と言い、安倍元首相の思考は飛躍が多いのです。

4月17日での講演では、首相時代のトランプ氏との関係について「あれだけ仲が良かったら(日本が攻撃を受けた場合は)米国は絶対に報復するだろうと(他国は)思う。ゴルフは抑止力のためにやっていた」と述べています。それは事実かも知れませんが、トランプは再度米国大統領に返り咲く可能性もあるわけだから、ここで口に出すものではないと思います。またゴルフが抑止力と言うのなら、最も日本の脅威である中国の習近平主席とこそゴルフをして仲良くすべきでした。習近平主席には「台湾有事は日本有事」などと刺激しておいて、トランプ大統領とは守ってもらうことを期待してゴルフをするのは、マッチポンプです。如何に安倍首相の思考力が低劣であるかが分かる事実です。

更に4月21日にはシンポジュウムで、ロシアのプーチン大統領は「言ってみれば戦国時代の武将みたいなもの。たとえば織田信長に人権を守れと言っても全然通用しない」と述べ、プーチン大統領を織田信長に例えています。確かに信長は、長島一向一揆や比叡山焼き討ち、有岡城の戦い、天正伊賀の乱などで多くの民間人や僧侶を殺害していますが、当時は日本統一に向けて日本中の武将が戦いに明け暮れた時代であり、現在とは時代背景が全く異なります。それにテレビに映るプーチンは極めて冷静で合理的な思考の出来る人のように見え、信長のような直情的な人物とは異なるように思われます。安倍元首相のこの例えは、日本人においてプーチンを信長的な英雄にする危険なものであり、ウクライナ戦争を日本の戦国時代の戦いと同一視するものです。

ロシアのウクライナ侵攻後の安倍元首相の発言には、首相在任中にプーチンと27回も会談し気心も知れていることを利用して停戦実現に貢献しようという気概は全く伺えません。こんな人が7年8カ月も日本の首相をしていたことは、恥ずべき日本の歴史です。