肥薩線復旧が不可能なことは採算性を見れば明確
2020年7月の九州豪雨で被災し全線の約7割が不通になっているJR肥薩線復旧につての2回目の検討会議が5月20日熊本県庁で行われたいう報道です。その場でJR九州は、3月にあった1回目の検討会議で国土交通省が示した流失した鉄橋2本を国の治水工事と一体で再建する方策などに沿って試算すると、国が復旧費のうち159億円分を公共事業として行い、鉄道軌道整備法に基づく補助制度なども最大限使うものと仮定すると、JR九州の負担は約25億円まで圧縮できるとする試算を提出したようです。またこの試算では、復旧後の事業形態はJR九州が列車を運行し、自治体が駅舎や線路を所有する「上下分離方式」としているようです。一方では会議後に取材に応じたJR九州の松下琢磨総合企画本部長は「国などの支援があっても私たちの負担は高額だ。利用や収支の持続可能性と合わせて今後議論すべきものだ」と強調したとのことです。
この記事を読んで不思議なのは、被災前年間約9億円の赤字を出し、持続不可能と思われる肥薩線の復旧費用の試算をJR九州がしていることです。JR九州の肥薩線復旧の判断においては、運航の採算性(収支)がポイントになると思われ、採算性がないと分かっていれば、復旧費用の試算はする意味がありません。被災前の鉄道設備費負担はほぼ0(補修維持費用を除く)ですから、今回復旧費用を全額国や県が負担しても、復旧後乗降客数の増加は期待できないので被災前の年間約9億円の赤字は変わらないことになります。更に復旧するにしても完成は5年後くらいになるでしょうから、鉄道沿線の人口は更に減っていることが想定されます。また今後30年を考えると、肥薩線沿線は今の3~4割の人口減少が予想されます。そうなると赤字はもっと大きくなることが確実であり、30年で300億円を超える赤字が予想されます。
このことから、肥薩線は復旧しても採算性がないことは明らかです。従って、JR九州にとって復旧費用の試算は意味がないことになります。JR九州が出すべき資料は、採算の目途が立たないことの資料であって、復旧費用試算の資料ではなかったと考えられます。この資料を提出したことによって、国や県、とりわけ沿線自治体や住民に復旧の可能性があるという期待を持たせてしまいました。
JR九州は、日田-英彦山線の添田駅-夜明け駅間を鉄道復旧からBRT(バス専用線)復旧で決着したプロセスを踏んでいるものと考えられます。添田駅-夜明け駅間の場合、2017年7月に災害で運行不能になり、2018年間から関係者で復旧方法の協議を開始し、2020年7月に決着しています。これからするとJR九州は、肥薩線復旧問題も2年くらいかけて2024年3月頃、BRT復旧での決着を考えているのではないでしょうか。その場合球磨川に架かる橋は道路橋として国が建設し、鉄道部分のバス専用線化は国とJRの負担で行い、20年程度JRがバスを運行するということになると思われます。JR九州としては、肥薩線復旧による赤字累積を考えればこの負担は安いものです。
肥薩線復旧については、誰が考えても結論は明確(復旧不可能)であり、その理由である採算性の議論を最初に行うべきだと思われます。だらだらと時間を掛けていたら、肥薩線沿線の再始動が遅れるだけです。