SBI新生銀行は産業金融専門銀行に転換を

昨年12月10日にSBIによる新生銀行買収が完了し、今年2月8日からSBI経営陣になって経営が始められています。これで何が変わるのかというと、社名を来年1月4日からSBI新生銀行にすること以外よく分かりません。銀行は預金を集めてそれを顧客に融資し、その差額で稼ぐという基本構造は変えようがなく、いくらSBIが親会社になったからと言って大きく変わり様がないように思えます。新生銀行はこれまで集めた預金を傘下のノンバンクに融資し、利鞘を稼ぐと言うある意味安易な取引を中心にしており、審査のノウハウも無ければ、営業力もありません。これを中心において第四のメガバンクを目指すと言われても、その実現を信じる人は少ないと思われます。

SBIは新生銀行買収前から第2地方銀行などこのままでは単独の生き残りが難しい小規模銀行に資本参加しています。最近は5月11日に新潟県長岡市に本店を置く大光銀行に出資する(9行目)という報道です。大光銀行は総資産約1兆4,000億円、従業員約800名の規模であり、正直お荷物を抱えることにしかならないように思えます。これを10行まで増やすということですが、それがどのようにメガバンクに繋がるのか意味不明です。SBIの北尾社長は野村證券出身のやり手経営者として有名ですが、新生銀行を中心に10の小規模地方銀行によるメガバンク構想ばかりは勝算があるとは思えません。ただし、SBIとしては既に新生銀行買収で2022年3月決算において2,702億円の利益(負ののれん代。買収した株式割合に応じた新生銀行の純資産と株式の買収に要した金額の差額)を計上しており、SBIが出資した地方銀行を最終的にSBIが買収すれば巨額の利益(負ののれん代)が転がり込んでくることが考えられます。これ狙いとすれば分からないことはありません。

北尾社長は野村証券の事業法人担当役員として多くの大企業にファイナンスを通じて成長資金を供給してきた経験が強みですから、これを生かした銀行経営をして頂きたいと思います。それは2000年9月にみずほホールディングが誕生して消滅した産業金融専門銀行の復活です。みずほホールディングでは企業金融専門銀行としてみずほコーポレート銀行が2013年までありましたが、商業銀行中心のみずほグループにおいては脇役になっていました。みずほ銀行に吸収されてしまったのがそのことを示しています。

産業金融専門銀行である日本興業銀行がなくなる当時、大企業は社債や増資による資金調達を増やしており、このままでは産業金融専門銀行は成り立たないと言われていました。そのためみずほホールディングの誕生は、日本興業銀行の救済のためとも言われました。果たしてそうでしょうか?確かに大企業向けの融資は減ったかも知れませんが、社債や増資の引受を増やせば大企業の資金ニーズに対応できたと思われます。銀行=融資という固定観念に囚われていたことが日本興業銀行の消滅を招いたと考えられます。

日本興業銀行が消滅してもメガバンクがあるから大企業金融は機能しているという声も多いと思われますが、2000年以降日本企業の存在感は世界で低下しています。それは成長分野を見通した戦略的な資金配分をする産業金融専門銀行がないことにも原因があります。例えば1980年代世界最強を誇った日本の半導体は、今では韓国、台湾勢に大差を付けられています。これは半導体産業の将来性を評価し、資金を供給する銀行がなかったことが原因の1つです。韓国のハイニックス半導体は、2001年に経営破綻したのち銀行団の資金支援を受け経営再建が図られ、2011年には通信企業SK傘下となり再建を果たし、今ではDRAMおよびNAND型フラッシュメモリーで共にサムスン電子に次ぐ世界2位の地位を占めるまでになっています。一方1999年に日本電気と日立製作所のDRAM部門を統合してできたエルピーダメモリは、2009年に約19%のシェアを持ちながら、その後の世界通貨危機で売上不振となり、資金を供給する金融機関がなく2012年2月会社更生法を適用し、米国マイクロンテクノロジーによって買収されました。これを見れば韓国の金融界は成長市場を押さえて粘り強く資金を今供給しているのに対し、日本の金融界は短期的な資金繰りばかりを見て、成長性のある市場であれば長期的に支えると言う視点がないことが分かります。これが現在韓国の産業が日本の産業を追い抜いた最大の要因と言えると思います。

既に世界の中位グループにまで落ちた日本の産業を復活させるには、優秀な産業調査力の下、成長性のある分野の企業には長期的に資金を供給する産業金融専門銀行が必要となっています。SBI新生銀行には是非この役割を担って欲しいと思います。(尚これは新生銀行が旧日本長期信用銀行の流れを汲むことは無関係です。長銀は流通、不動産向け融資が中心であり、産業金融専門銀行とは言えませんでした。)