コメンテーター弁護士の実力を浮き彫りにした阿武町事件

山口県阿武町の4,630万円誤振込事件で、5月24日4,299万円が回収され、担当した中山修身弁護士がネット上で賞賛を浴びています。

誤振込は4月8日に発生し、町は当日銀行からの連絡で認識しています。その後振り込まれた住民と連絡を取り、副町長が当該住民に返還して呉れよう要請し、当該住民も承諾、返還手続きのためにタクシーで銀行まで向かう間に、当該住民が心変わりしたようです。その後「返還しない。全部使い切る。罪は償う」と言い始めたと言います。この後も町は説得を続けたようで、この住民の口座に仮差押えをかけたのは、誤振込後13日目だったと言われています。そのとき口座の資金は数回に開けて引き落とされて無くなっていたということです。

この問題はテレビのワイドショーやニュースで頻繁に取り上げられ、多くの弁護士がコメントしており、弁護士の実力を評価するには絶好の機会でした。ここで目立った意見は、「使われてしまえば回収不可能となる可能性が高い」「当該住民は犯罪に問われる可能性が高いが、何の犯罪にも問われない可能性もある」ということでした。ここで速やかに仮差押えをかけるべきと主張した弁護士はいなかったと思います。当該住民が「返還しない」「使い切る」と言っているのだから、それを防ぐためには仮差押えをかけるしかないのに、コメンテーター弁護士が仮差押えを主張しないのが不思議でした。その後5月18日に当該住人が逮捕され、お金はネットカジノで使ってしまったと言っていることが分かると、「早く仮差押えをかけるべきだった」という主張するコメンテーター弁護士が出てきます。この弁護士はテレビで人気のコメンテーターであり、この問題が起きてから頻繁に発言していました。もしこれを主張するなら事件が起きた最初から主張すべきでした。そうしていれば町はもっと早く仮差押えを掛け、相当のお金を確保できていた可能性があります。

今回の事件ではテレビでコメントした多くの弁護士が不合格だったと言えます。私の中では当該住民の逮捕後テレビ朝日のコメンテーターとして登場した元大津市長の越 直美弁護士が行政の内側のことも分かったコメントで良かったと思います。それでも越弁護士からも有効な回収方法は聞かれませんでした。

そんな中阿武町から依頼を受けた中山弁護士が5月24日までに4,299万円回収した訳ですから、ネット上賞賛されるのも当然です。中山弁護士は、容疑者が国民健康保険料を滞納していたことから、これを回収するために容疑者の口座から資金が移動した決済代行会社に差押えのための問い合わせを行い、その後町の職員が調査書を届けたようです。国民健康保険料は税金と同じ取扱いで、その滞納には国税徴収法67条が適用され、回収担当職員は職権で回収に充てられそうな滞納者に属する金品その他の資産を差し押さえることができることになっています。阿武町の職員が決済代行業者を訪れたのは、差押えの前段階の手続きのためと思われます。これで決済代行会社の口座にある容疑者の資金額が分かれば次は差押えが実行されることになりますが、当時決済代行業者の口座に容疑者の資金は600万円しか残っていなかったと言われており、残り4,030万円はどこに行ったのか更に追及されることが予想されました。決済代行業者が正当な業務だけを行っていれば、いくら調べられてもよいのですが、実際はそうでなかったと思われます。実は中山弁護士の狙いはここにありました。そのため決済代行業者の口座がある銀行にマネーロンダリングの疑いを指摘し圧力をかけています。銀行としても決済代行業者が法的にグレーゾーンの取引を行っていてることは認識していたと思われます。その結果これらの銀行から決済代行業者に圧力がかかったと思われます。同時に決済代行業者には警察の捜査が入るとの噂も耳に入っていたと思われます。こうして決済代行業者は入金額全額返還して、本件では不当な利益は得ていないという外形を作ることを選択したものと思われます。

このように中山弁護士は、決済代行者の闇を衝いて回収を図ったものであり、これはテレビのコメンテーターと違い、実際の回収結果で勝負していている市井の弁護士の凄みが出たものと思えます。

当初ネット上阿保呼ばわりされた阿武町は、4,299万円の回収によって一挙に見直された形ですが、冷静に考えればこれは大変ラッキーだったと言えます。もし今回のような闇を抱える決済代行業者でなければ、全額回収できないか、回収に長い時間が掛かったと思われます。だからやはり当該住民が「返還しない」と言った時点で、裁判所の許可を得て仮差押えを行うべきでした。中山弁護士がこれをしなかったとは考えずらく、中山弁護士は後になって山口県庁や総務省から送り込まれたのではないでしょうか。

中山弁護士の登場で、テレビのコメンテーター弁護士の実力が浮き彫りになった阿武町事件です。