豊田社長の報酬6億8,500万円、これが日本の会社員の収入が上がらない原因

トヨタ自動車の豊田章男社長の2022年3月期の報酬は、前年より約2億4,000万円多い6億8,500万円だったと言う報道です。トヨタ社長として歴代最高額ということです。この報酬は「固定報酬」と賞与や株式報酬を合わせた「業績連動報酬」の総額で、今回から「業績連動報酬」の割合を多くしたためこの額となったようです。

報道を見ると「6億8,500万円も」というニュアンスですが、とんでもありません。「6億8,500万円しか」と捉えるべきです。社長がこの金額だとすれば、副社長が4億円、専務が3億円、常務が2億円、平取締役が1億円くらいの配分です。そうなると実務を預かる執行役員(昔の取締役)が5,000万円、部長が2,500万円、課長が1,500万円、係長が1,000万円くらいが精一杯です。これでもメーカーとしては高額ですが、営業利益が約3兆円であることを考えれば安いと言えます。この金額も賞与が8カ月くらい含まれており、固定給はそんなに上がっていないため、会社としての固定費はそんなに増えていないはずです。

韓国サムスン電子は2021年度約5兆円の営業利益を上げた結果、社員の平均年収は約1,440万円となったと報道されています。トヨタ社員の平均年収は2020年度で865万円となっており、2021年度は900万円台になったと思われますが、まだサムスン電子と比べると見劣りします。それは営業利益の差もありますが、経営トップの報酬に大きな差があることが最大の原因です。2017年のサムスン電子社長の年収は24億円ですが、固定給与は1.8億円であり、目標達成インセンティブ約8億円、特別賞与15億円となっており、経営者が魅力的な報酬を得ていることが分かります。経営者がこの額ですから、当然それ以下も相当な額になってきて、社員も当然高額になってきます。これからトヨタの場合、豊田社長の報酬が社員の年収が上がらない原因であることが分かります。豊田社長にとっては、トヨタは家業みたいなものであり、トヨタに内部留保が貯まることは豊田家が富むこととなり良いことですが、人生の一時期だけ働くに過ぎない一般社員にとっては、利益が多く出たときはできるだけ分配して欲しいものです。それが社員のやる気を引き出し会社を強くします。現在サムスン電子を初め韓国企業が好業績を謳歌していますが、これは業績連動報酬を徹底し、好業績→高収入→高活力の好サイクルが回っているからです。

2020年度で見ると日本の経営者報酬のトップは、ソニー吉田社長の12億4,500万円となっています。ソニーの2020年度の営業利益は1兆2,023億円でトヨタ(約2兆4,428億円)の約半分です。国際的には吉田社長の報酬が標準的であり、その結果ソニー社員の方がトヨタ社員より高年収になっていると思われます。

日本の場合、あのソフトバンクGの孫社長の報酬は1億円と言われており、経営者報酬を低く抑えています。孫社長の場合、株式配当や株式の売却益などで巨額の収入があることから、高額な経営者報酬は必要ありません。しかしその結果ソフトバンクの日本人役員や社員の報酬は低く抑えられることとなります。一方ではソフトバンクGは外国人役員には20億円を超える報酬を支払っており、内外報酬差が著しくなっています。これはトヨタの場合も同じで、以前フランス人の副社長には10億円を超える報酬を支払っていたことで分かるように、やはり日本人役員と外国人役員に内外報酬差を設けています。日本人からすると少なくともこれは止めて欲しいものです。

トヨタは日本最大の企業であり、日本を代表する国際企業です。従って日本の他企業の経営者は豊田社長の報酬を上回る報酬は取れません。その結果、日本の経営者の報酬は豊田社長の報酬以下に抑えられることになり、社員の報酬も抑えられることになります。このように日本の会社員の収入が上がらないのは豊田社長の報酬が低いためであり、豊田社長の報酬が国際標準になれば日本の会社員の収入も上がることになります。こういう観点で豊田社長の報酬に注目する必要があります。