高橋元理事捜査はフランス検察とのバーター取引

東京オリンピック組織委員会元理事高橋治之氏への収賄容疑の捜査が大詰めを迎えているようです。家宅捜査が止まりましたし、リーク情報も減ってきています。理事と言う立場は業務執行に関わらないから業務上の権限はなく、受託収賄の立証は難しいとの声もあります。また高橋氏は民間人であり、オリンピック開催準備に協力するために理事に就任したのに、みなし公務員とされ、自分の会社で受けた仕事の対価が賄賂に当たるとされたのでは、今後公的な組織や団体の役員に就任する民間人はいなくなってしまいます。今回の捜査を見て、JR東海が単独で実施していたリニアカープロジェクトに大阪まで延伸のため国が無理やり資金拠出したら、リニア工事に談合があったと東京地検特捜部が捜査に入った事件を思い出しました。これは日産ゴーン会長逮捕は東京地検特捜部の暴走と言う世間の批判を躱すために手掛けた事件と言う背景がありました。このように公務・公金を口実に事件化する場合には検察側に事情がある場合が多いように思われます。今回の高橋氏捜査にも検察側に何らかの事情があるように感じられてなりません。

そう考えると1つ思い浮かぶことがあります。それはフランス司法当局(以下フランス検察)が今年4月日産元会長のゴーン氏を国際指名手配したことです。容疑はルノーの資金を私的に流用したこと(ベルサイユ宮殿での結婚式費用)、オランダのルノー・日産・三菱の合弁会社で不正な報酬を受け取っていたこと、および中東で日産の販売促進費を代理店などから自身に還流させていたことなどでした。このうち前半の2つについてはルノーが関係しているのでフランス検察が取り上げるのは分かるのですが、3番目の中東での販売促進費の不正還流についてはルノーは関係しておらず(日産はルノーの支配下にあるという事情はあありますが)、かつこれは東京地検特捜部がゴーン逮捕容疑として付け加えたもので、立証は難しいと考えられていました。そもそもゴーン逮捕当時フランス政府は不当逮捕として日本政府に釈放を迫っていましたし、フランス検察も捜査に積極的ではありませんでしたから、ゴーンの国際指名手配は意外な印象を受けました。これで一番救われたんは日本の検察です。というのは、今年3月ゴーンと共に逮捕されたケリー被告に対する判決があり、容疑(有価証券報告書不実記載)の大半(7年分)が無罪、一部(1年分)については有罪としました。これは実質的には冤罪だったということ(一部有罪は検察の顔を潰さないため)であり、検察は追い詰められていました。これが4月フランス検察が日本の検察の主張を一部採用し、ゴーン氏を国際指名手配したことにより日本の検察のゴーン逮捕は正しかったとフランス検察が認めたことになったのです。

一方何でフランス検察がランス人であるゴーン氏を犠牲にしてこんなことをしたかと言うと、ゴーン氏が税金が安いオランダで納税するなどフランスの国益に反することをしていたことと、フランス検察は2019年からオリンピック招致に関して日本オリンピック委員会が賄賂を提供したいう贈収賄事件を捜査しており、こちらで日本検察の協力を得たいという狙いがあったためと考えられます。この件に関しては日仏司法共助で日本の検察も捜査に協力していましたが、本気でなかったようです(2021年1月フランス検察は『日本の捜査協力は限定的で欠陥が多い』と述べている)。その際日本の検察は、日本からお金(賄賂)を支払ったのは事実で、それを差配したのは国際的に顔が効く高橋氏だったという事実を掴みながら、フランス検察には伝えていなかったと思われます。当初日本検察は、竹田会長退任(辞任)で終わらせようとしたようですが、フランス検察は納得せず、ゴーン氏を国際指名手配にして日本検察に貸しを作ったことから、日本検察もそれのお返しとして高橋氏捜査に着手したものと考えられます(7月4日にはゴーン事件捜査と称してフランス検察が来日している)。そうだとすれば高橋氏逮捕に至るのは間違いなく、この先には日本検察が掴んだ証拠がフランス検察に提供され(司法共助)、フランス検察により高橋訴追となると思われます。要するに高橋氏捜査は日本検察とフランス検察とのバーター取引ということになります。