楽天モバイルにプラチナバンドを割当てる必要はない

2022年6月末の楽天モバイル(MNO)の加入者は477万人で、2022年3月末に比べ14万人減少したという報道です。この1年間は四半期ごとに40万人ほどの増加となっていましたので、楽天モバイルは実質的に54万人の加入者を失くしたことになります。

これは楽天モバイルが5月13日に発表した1Gまで無料とする0円プランを6月末で廃止することが原因です。0円プランは2021年1月に発表され、同年4月1日から実施されました。それまで通信設備の少なさや繋がりやすい周波数の電波(プラチナバンド)がないことから、楽天モバイルは繋がらないので使えないと言われ、加入者数が伸びませんでした。ところがこの0円プランを含むun-limitedⅥは発表されると加入者が増加し、2022年2月には550万人(MVOとMVNOの合計)を突破しました。従って加入者獲得という面ではこの作戦は大成功と言えます。これが5月に変更になったのには、楽天モバイルの赤字累積で楽天本体が繰越欠損に転じことが原因と思われます。2022年6月中間期の楽天の損益は1,766億円の赤字で、そのうち楽天モバイルが2,593億円の赤字となっています。と言うことは、楽天モバイル以外の事業は827億円の黒字と言うことになります。と言うことは、楽天モバイルの赤字を827億円に留めれば、良い節税事業ということになります。楽天グループの2022年6月末の貸借対照表を見ると、剰余金が初めて522億円の赤字に転じています。資本が1兆469億円ですので、楽天モバイルが今の赤字を続ければ3年程度で債務超過になってしまいます。楽天銀行や楽天証券の株式公開はこれを防ぐためと思われます。その焦りから出てきたのが5月の0円プラン廃止でした。

楽天モバイルの増加加入者の多くがこの0円プランであり、これは楽天モバイルの利益にならないのは明らかでした。それはこのプラン発表時に分かっていたことであり、これに対して三木谷社長は、楽天グループの利用が増えることでカバーできると言っていました。そもそも楽天が携帯電話事業に進出したのは、ネット事業へのアクセスが携帯電話端末からとなってきており、これを押さえないとヤフーやKDDIグループに楽天経済圏を侵食されるという危機感があったからでした。日本において携帯電話会社としては3社で十分なところに楽天が進出できたのは奇跡と言えました。楽天の進出によりそれまで3社が談合して高止まりしていた携帯電話料金が大幅に値下がりしましたから、楽天に感謝している携帯電話利用者は多いと思います。従って繋がりさえすれば楽天モバイルに加入したいと思っている人も多いのです。しかし現状は繋がりが悪く、先発3社に太刀打ちできません。そこで1Gまでとは言え0円ならサブとして、またはメインとして試しに加入してみようとしたのが0円ユーザーです。0円ユーザーは楽天モバイルに好感を持っている人たちですから、繋がりが改善すれば有料ユーザーになり得る人たちです。また0円ユーザーの大部分は0円が繋がりが悪いための措置であり、これが改善すれば300円、500円と引き上げられるだろうと予想していたと思います。しかし予想に反して改善が不十分な状態で0円プランを廃止し、いきなり3Gまで980円にしたことで反発を招きました。それに加え0円プラン廃止発表の席で三木谷社長が「ぶっちゃけ、いつまでも0円で使われても困る」と発言したことで、0円プラン加入者を怒らせてしまいました。2022年4~6月期に減少した加入者の大部分は、この三木谷社長の発言に怒った人だと思います。

更に三木谷社長は8月10日の中間決算発表の席で、「血を入れ替えるというと怒られるかもしれないが、優良ユーザーに入れ換えて成長していく」と発言しました。こうなると0円ユーザーを挑発しているとしか思えません。楽天モバイルにとって最も有力な将来の優良ユーザー候補である0円ユーザーをこれだけ貶して何の良いことがあるというのでしょうか。それともこれは炎上狙いなのでしょうか。

いずれにしても三木谷社長は、今後楽天モバイルは儲からない加入者は切り捨て、儲かる加入者を増やすことに舵を切ると宣言しました。その結果あまり使わないユーザー(儲からないユーザー)にとっては、ドコモやau、ソフトバンクの方が安い料金プランを提供する良い携帯電話会社になります。楽天モバイルは、繋がりが悪いのはプラチナバンドがないせいだとして、既存の3社が持つプラチナバンドの一部譲渡を主張しているようですが、楽天モバイルが優良ユーザー重視に舵を切った以上、譲渡する必要はありません。国民の電波を一部のユーザーを切り捨てるような会社に使わせるのはもってのほかです。楽天モバイルは楽天経済圏の優良顧客のためのインフラを目指しており、プラチナバンドを割当てる必要はありません。