日本電産の車載モーター事業は楽天のモバイル事業みたいな存在?

昨年日産から三顧の礼で迎えられ社長CEOに就任し、今年4月COOに降格になっていた日本電産の関潤氏が退社した(する?)との報道です。経済関係者の間では「やっぱりな」という声が多いようです。今回日本電産の創業者オーナーである永守会長の関氏に対する評価が急変したのは、関氏が担当していた車載モーター事業が業績不振で2四半期連続赤字となったからのようです。日本電産では、毎月の経営会議で役員から担当分野の業績報告があり、未達だと土日返上で挽回を迫られると言われていますので、この間関氏に対する永守会長からの叱責は激烈を極めたと思われます。

そもそも関氏は永守会長の後継者として招聘されたのではなく、2030年に10兆円の売り上げを達成する計画の柱となる車載モーター事業の担当役員として招かれたように思われます。要する永守会長は関氏に、現在2兆円の売上を車載モーター事業で10兆円まで持って行ってくれることを期待していたのです。ところがこれが約1年経っても実績が上がらず、また今後上がる気配も見えないことから、永守会長が見切ったものと思われます。従って関氏辞任は、実質的には一事業部門の担当役員の辞任であり、それ程大騒ぎすることではないと思われます。

もっと注目すべきは車載モーター事業の行く末です。永守会長は、車載モーター事業は次の日本電産の柱となる事業と見たようですが、それ程甘くないと思われます。永守会長の中には、日本電産のハードディスク用モーターが世界中のハードディスクメーカーに採用され、売上を大きく伸ばした成功体験があるように思われますが、電気自動車の車載モーターはトランスミッションと一体化して自動車の中核モジュールになるので、世界の巨大自動車メーカーは差別化の肝として内製化を図ると思われます。従ってハードディスク用モーターのように大量生産で価格が安ければ買うというものにはならないと思われます。一方日本電産は大量生産を前提に中国、欧州などに大きな工場を建設(中)しており、このまま受注が取れない状況が続くと、日本電産の業績に目に見える形で悪影響を及ぼしてくると考えられます。そうなると永守会長の後継者不在の影響もあって株価は暴落するでしょうから、株価が会社の評価と考える永守会長にとっては耐えられない状態になると思われます。

永守会長がハードディスク用モーターの成功体験に囚われて車載モーターで躓くとすれば、アリババへの投資成功体験に囚われてビジョンファンドで躓いたソフトバンクの孫社長とそっくりです。そして日本電産における車載モーター事業は本体の業績に悪い影響を及ぼすと言う点においては、楽天のモバイル事業に似ています。楽天のモバイル事業の赤字は、これまで楽天グループが積み上げてきた利益を食い潰し、2022年6月中間決算では522億円の繰越損失になっています。日本電産の車載モーター事業は楽天におけるモバイル事業になる可能性があります。1年ちょっとで関氏を更迭した永守会長の焦りはこの部分にあるように思われます。