是正命令は国交省にも出すべき

9月8日、日野自動車(日野)によるエンジン性能試験を巡る不正問題で、国土交通省が日野に対し是正命令を出したという報道です。その発表の中で斎藤国交大臣は「極めて悪質。組織風土や体質に重大な問題があると思わざるを得ない」と言っています。そっくりそのまま国交省に当て嵌る言葉であり、良くも言えたなという印象です。

国交省では2021年12月統計不正が明らかとなっており、それは2013年頃から始まっていたとなっています。日野がデータ不正を始めたのが2003年頃から言われていますので、長期間にわたる点では同じです。従って「組織風土や体質に重大な問題があると思わざるを得ない」のは国交省も同じです。

更に国交省では、今年4月の知床遊覧船事故で船舶検査の手抜きが明らかになっています。これから国土交通省の手抜体質が垣間見えており、日野のデータ不正が20年近くまかり通っていた原因です。車両の型式指定は、自動車メーカーが車両運送法の自動車型式指定規則に定めるルールに基づいて試験などを行い、基準をクリアしていると国交省に申請して認められれば、以後個別の車両につき検査を受けなくても良いという制度です。これは自動車メーカーに対する信頼に基づいた制度であり、これを維持するためには国交省に抜き取り検査や抜き打ち検査など不正を防止する行動が必要になります。特に車両データの不正は、人の命にかかわるものが多いので、これらは欠かせないことになります。これが行われてこなかったことが今回の日野データ不正の最大の原因と言えます。

例えば、金融業界では、金融庁や日銀は抜き打ち検査を実施ており、不正の強い牽制作用となっています。金融業界の場合、不正による損害は金銭的なものですが、国交省が管轄する業界の不正は国民の命に関わりますから、抜き打ち検査の必要性は金融業界より高いと言えます。国交省は日野へ是正命令を出すと同時に、自らの不作為も認めて、今後は抜き取り検査や抜き打ち検査を実施すると宣言すべきでした。

2020年12月には後発医薬品メーカー小林化工で真菌症の経口治療薬に睡眠薬の成分が混じると言う製造上のミスが露見しましたが、これは国から承認を受けた製造方法と異なる方法で製造していたために生じたものでした。この原因も一度製造承認を受けたら国の立ち入り検査などが行われないことでした。本件ではその後芋づる式に後発医薬品メーカーの製造方法違反が見つかっています。また最近幼稚園児が送迎用のバスに取り残され、熱中症などで死亡するという事故が生じていますが、これを認可保育園などで認可された条件が守られているか抜き打ち検査がなされていないために起きています。

このように官庁全般に承認した内容が守られているかどうか検査するという行動が欠落していることが、痛ましい事故や不正の原因になっています。今の官庁に求められているのは、安全のためにある事前承認制度では、抜き打ち検査を制度化し、承認された内容が守られているか確認することです。