オリンピック贈収賄捜査はフランス検察へのお返し

東京オリンピック贈収賄捜査が広がりを見せています。最初は高橋治之元組織委員会理事とアオキ間の贈収賄に留まるのかと思っていたら、カドカワからも逮捕者が出ました。さらにパーク24や大広にも家宅捜査が入っています。ゴーン捜査の失敗もあって今回は証拠固めに慎重を期しているようです。同時に今回の捜査は、フランス検察へのお返しのため日本の検察が着手したものであり、かなり無理筋事件であることも捜査を広げている原因です。増収賄の決め手がなく、合わせ技で贈収賄に持っていこうとしているように思われます。これは高橋氏逮捕前から始まった検察リークによる新聞の贈収賄キャンペーンでも分かります。

検察が贈収賄という根拠は、高橋氏は東京オリンピック組織委員会理事であり、理事就任時点でみなし公務員となるから、高橋氏がオリンピックに関して得た利益は収賄性があるということです。しかし高橋氏は個人企業の経営者でもあり、営利活動も行っています。理事に就任したら営利活動は行えないという規定はないし、そもそも高橋氏のような非常勤理事には具体的職務権限はありません。組織委員会には高橋氏の出身母体である電通の社員が大勢出向していたと言うことですから、それらの社員に働きかけて高橋氏の個人企業にお金が落ちるようにしていたことはあったと考えられます。しかしこれはみなし公務員の職務権限に基づくものではなく、むしろ元電通専務という立場を利用したものです。これは民間人の正当な営利活動であり、犯罪行為にはなりません。このように高橋氏にはみなし公務員という身分と民間企業家と言う2つの身分があり、見なし公務員と言う身分には職務権限がないことから、民間企業家という身分で営利活動を行っていたと考えられます。これは高橋氏に理事就任を要請した段階で、組織委員会幹部は認識していたことであり、高橋氏が行っていた活動はその想定範囲内と言えます。従って検察に何らかの事情がない限り、普通本件は事件化されないと考えられます。それを検察はみなし公務員という身分を利用して事件化したのです。

検察が事件化した原因は、今年4月フランス検察が元日産会長で逮捕後レバノンに逃走したゴーン氏を国際指名手配し、窮地に陥っていた日本の検察を救ったことへのお返しです。ゴーン氏逮捕容疑は、有価証券報告書に報酬を少なく記載したというものでした(以後いくつか追加されたが本筋はこれ)が、検察が言う報酬は実際には貰っておらず、また将来貰えると確定もしていないため、この金額を記載する方がおかしいのです。これは国税が追徴課税していないことからも分かります。検察がゴーン氏を逮捕したのは、その年の7月から使えるようになった司法取引制度を使った事件を初めて手掛けたという実績作りのためだったと考えられます。そうでないとあんな無理筋の事件なんか手掛けません。案の定ゴーン氏の共犯として逮捕されたケリー氏は、今年3月の裁判で容疑のうち7件は無罪、1件だけ有罪という判決が下りました。これは実質無罪ということであり、冤罪だったことを意味します(1件有罪にしたのは検察の顔を潰さないため)。これで検察は追い込まれたという報道も見られました。そのような状況で4月フランス検察がゴーン氏を国際指名手配したのです。容疑は、ルノー資金の私的流用(ベルサイユ宮殿での結婚式費用)、オランダのルノー・日産・三菱自動車の合弁会社で不当に報酬を得ていたこと、および中東で日産の代理店から販促費を還流させていた、というものでした。最初の2つはルノー絡みですから分かりますが、最後の還流は日産絡みですからなぜ容疑に入れたのか理解不能です。これは日本の検察がゴーン逮捕容疑に後日追加した容疑であり、日本の検察の逮捕理由をフランス検察が認めたことになり、日本の検察がゴーン氏逮捕を正当化する材料になります。これはケリー被告の実質無罪判決によってゴーン逮捕は不当だったという声が強まる中で、日本の検察にとっては大変な助けになりました。ここからフランス検察へのお返しのために日本の検察は、フランス検察が2018年から捜査していた東京オリンピック招致活動に関する贈収賄事件の捜査に本気で着手することを決断したと思われます(それまでも司法共助により日本の警察も捜査していたが本気でなかった。フランス検察が不満を述べている)。ゴーン事件を手掛けた当時の特捜部長が今回東京オリンピック贈収賄事件を手掛ける東京地検の次席検事(東京地検のNO2で特捜部長は配下)に就任していることも、この予想の背景にあります。また高橋氏捜査が報道されたのは7月20日頃ですが、その前の7月4日にはフランス検察が来日しています(理由はゴーン事件の情報交換になっている)。日本の検察とフランス検察が連携していることが分かります。

こう考えると現在のオリンピック贈収賄事件の捜査は、日本の検察による高橋氏起訴では終わらず、フランス検察による高橋氏訴追(オリンピック招致に当たり贈賄を実質的に差配した)がゴールとなると考えられます。