桜井元総務事務次官の天下りで電通は公民の距離感喪失

今回の東京オリンピック贈収賄事件の主役は元東京オリンピック組織委員会理事高橋治之氏ですが、贈収賄資金は電通を経由しており舞台の中心は電通です。高橋氏は元電通専務でしたし、組織委員会には電通から多くの社員が出向し、実質的に実務を動かしていました。実際上オリンピックのような大きなイベントを動かせる企業は、日本には電通しかないようですから、電通がこの地位に就いたのには贈収賄は無かったと思われます。

電通と言う会社は、普通のサラリーマンは接することがなく、テレビや雑誌で給料が高い会社として知るくらいです。私も電通社員に会ったことは無く、同じ会社の同僚が電通の鬼十則をバイブルにしていたことから知りました。これは次のような電通社員の行動規範を言います。

  1. 仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。
    2. 仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。
    3. 大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
    4. 難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
    5. 取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。
    6. 周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
    7. 計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
    8. 自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらない。
    9. 頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
    10. 摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。

電通では、これを実践したものが出世するようになっているようです。高橋氏はこの実践者で、スポーツイベントの世界で誰にも負けない人脈を作りあげ、世界的イベントの開催には不可欠の人物になっていたようです。この事件さえなければ、電通では伝説の人物として語り継がれていたと思われます。私は不動産バブル期に海外ホテル投資で有名だったEIEインターナショナル社長の高橋治則氏は高橋氏の弟と言うことを聞いて、高橋氏のイメージが湧きました(弟も背任容疑で逮捕されている)。

この事件では電通本社も捜索を受けたことから、最近電通の社長が社内にビデオメッセージを配信したということです。この中で事件の舞台となった東京オリンピックについて「全グループの総力を挙げて下支えしてきたにもかかわらず、このような事態になり、誠に痛恨の極み」と述べているようです。これについてヤフーニュースのコメントでは、「バレたことが痛恨の極みなんだろう」と揶揄するコメントも多く見られます。電通は社会から良く見られていないことが分かります。

そもそも電通は事業会社から広告の注文を取ってここまで大きくなった会社であり、法的制約が多い政府関係の業務の受注にはあまり積極的でなかったように思われます。電通が政府関係の業務に深く関わり始めたのは、東京オリンピック招致からだと思われます。これに成功したのには高橋氏の貢献が大きく、これにより安倍首相や森元首相に深く入り込んだようです。安倍首相時代の経済政策では、クールジャパン機構(ファンド規模828億円:2019年7月。殆ど不良投資化し清算を勧告される)は電通が主導していますし、プレミアムフライデーは博報堂であり、広告会社が企画に深く関与していることが分かります。安倍首相の金融緩和政策は経済政策を実施するための基盤に過ぎませんが、この経済政策が電通などの広告会社に依存したことから、上滑りなものとなり効果が上がりませんでした。従って安倍首相の経済政策の失敗は電通との深い関係が招いたものと言えます。その後電通はコロナ発生後持続化給付金支給事業(769億円)やマイナンバーカードを使ったポイント還元事業(350億円)の事務を受託するようになっています。受託すると言っても電通は実施部隊を持っていませんから、実施会社に割り振るだけです。持続化給付金の場合、経済産業省が電通や人材派遣大手のパソナなどで構成するサービスデザイン推進協議会に769億円で委託、同協議会は委託費の97%にあたる749億円で電通に再委託し、さらに電通は電通ライブなど子会社に計645億円で再々委託し、子会社は更に実施会社に再再々委託していました。その結果電通と子会社に約108億円が残ることとなりました。事務の割振りで769億円のうち108億円(14%)も抜くのですから、誰だってちょっとおかしいと思います。ここら辺から電通には胡散臭さが漂っていました。

このように電通が政府関係の事業を貪欲に受注し始めたのは、2020年1月元総務事務次官の桜井充氏が電通取締役から持ち株会社の副社長昇格してからです。桜井氏は2016年に総務事務次官を退官し、銀行顧問を経て2018年に電通執行役員に就任しています。桜井氏は民主党政権でテレビ電波の入札制が検討されたとき、総務省で反対の論陣を張ったと言われており、これに対する論功行賞だと思われます。このように官僚が在職中の職務と関連が強い企業に天下ることを認めれば、実質事後収賄的な天下りが横行すると分かっていながら、安倍首相時代には大手を振って行われました。これが電通が政府関係の事業を次々と受注する原因となっています。今回のオリンピック贈収賄事件も桜井氏の天下りで、電通内で公共と民間の境界が無くなったことが背景にあると思われます。電通が本当に反省しているなら桜井副社長の退任と、今後官僚の天下りは受け入れない姿勢が求められます。