岸田首相には投資できない
安倍元首相の国葬の日が近づいてきましたが、反対の声が大きくなっています。安倍氏が銃撃され死亡したのは7月8日ですが、岸田首相が安倍氏の国葬を発表したのはその6日後の14日と迅速でした。これまで検討使と揶揄される程決断しなかった岸田首相の爆速の決断に驚いた国民は多いと思います。この理由は良い方に考えれば岸田首相がそれ程安倍氏を尊敬していたと言うことになりますし、穿った見方をすればそれ程安倍氏がいなくなったことが嬉しかったとも採れます。実際は選挙応援中に暴漢から射殺されると言う日本の歴史上稀に見る悲劇が起きたことから、悲劇のヒーローとして国葬にすれば自分の人気が上がると考えたと思われます。更には麻生副総裁から電話で「理屈じゃないんだよ!」と国葬を迫られたことも後押ししたようです。
岸田首相のこの決断は今では兇と出ています。反対論は勢いずいていますし、海外要人の参列も思いのほか少ないようです。これと旧統一教会と自民党議員の関係もあって岸田政権の支持率は29%まで落ち込んでいます。これは菅政権末期の支持率と同じくらいであり、昨年の総選挙、今年7月の参議院選挙で大勝し、選挙を気にしなくて済む黄金の3年間となると思われた岸田政権がレームダック化する可能性が出てきました。
なぜここまで落ち込んだかと言うと、国民は安倍氏国葬決定に岸田首相の決断力の貧困さを見て取ったからだと思われます。安倍首相は在職期間こそ歴代最長を誇りますが、在職中にはその権力を使い、加計事件、森友事件、甘利事件、黒川事件などで社会的公正性を歪めました。また官僚人事でも秘書官など自分に仕えた官僚を優先的に要職に就かせるなど不公正な人事を行いました。これには多くの国民が反感を持っていました。安倍首相は在職中に全ての選挙で勝ってきたと言う人がいますが、選挙の投票率は約50%であり、その過半数の支持を得ても約2,000万人の支持に過ぎません(有権者数約8,000万人×0.5×0.5)。即ち、選挙を棄権した人を含めると約6,000万人が安倍氏を支持していなかったことになります。これらを考えると安倍氏を国葬にすることには、多数の反対があることは容易に予想出来ました。これが予想できないところに岸田首相の決断力の貧困さがあります。
決断力は若いときから小さな決断を積み重ねないと身に付きません。会社では若いときに上司の判断に異議を挟めば嫌われることから、若いときは決断力は隠し、必要なときが来たら使うのが賢い人と思われがちですが、こういう人は決断力が必要な地位になったとき決断力は身についていません。岸田首相はこのタイプだと思われます。
岸田首相も政治上これまでに1回大きな決断をしたことがあります。それは2000年11月の加藤の乱の際に加藤紘一議員の側に加わったことです。これは不成功に終わっており、この決断は失敗と言えます。これがトラウマとなり岸田首相はその後決断に慎重になり、決断力が退化して行ったようです。確かに加藤の乱の決断は、議員生命を失くしかねないものでしたから、そうなるのも仕方ないように見えます。しかし良く見てみると加藤の乱に参加した議員の多く(山崎氏、谷垣氏、菅氏、遠藤氏など)は自民党幹部に出世しており、加藤の乱における岸田氏の決断は岸田氏にとってマイナスではありませんでした(信義に厚いと評価されている)。これを岸田氏は間違いだったと決めつけて決断を封印したようです。昨年の自民党総裁選戦への出馬は、岸田派会長としての結論(帰結)であり決断とは言えません。そして久々の大きな決断が今回の安倍氏国葬であったと思われます。これも多くの国民から否定的評価を受けており、失敗と言えます。こう見てくると岸田首相の決断は今後とも外れる可能性が高いことが分かります。
成功した企業家は、企業が大きくなる過程で何回か成功か失敗かの分かれ道に遭遇します。その際になぜか成功の道にハンドルを切ります。それは論理的というよりも直観的な決断のように見えます。成功に導く何らかの羅針盤が頭の中に組み込まれているようです。ベンチャーキャピタル(VC)がベンチャー企業に投資するときには、経営者がこのような人かどうかを見極めます(ソフトバンクGの孫社長もこのタイプ?)。少なくとも失敗歴がある人には投資しません。七転び八起きの人には絶対投資しません。また転ぶからです。VCから見ると岸田首相は投資してはいけない人の分類に入ります。首相になったのが不思議な人です。