NHK受信料は選挙を左右する問題になっている

総務省は9月21日、公共放送に関する有識者会議の初会合を開き、NHKのインターネット事業をテレビ放送と同じ「本来業務」として認めるかどうかの議論を始めたと言う報道です。放送法はNHKの本来業務をテレビとラジオ放送と定めており、受信料はそのための費用と位置付けています。そのためNHKのインターネット事業については、2020年度まで事業費は受信料の2.5%以内とするという縛りがありました。それをNHKは総務省の承認を得て2021年度にはこの縛りを撤廃しています。これに対して民放や親会社の新聞社は、民業圧迫だと批判してきました。全ての情報がインターネット中心になる中で、NHKだけインターネット事業に制約を設けるのは合理性を欠き、見直しは当然の流れと言えます。

この総務省の動きには布石がありました。それは自民党の「放送法の改正に関する小委員会」が8月24日、NHKのインターネット活用業務を「本来業務」とすべきかどうかを検討するよう求める提言書を総務省に提出したことです。この小委員会は放送法改正の、ひいてはNHKの生殺与奪権を握っており、提言書となっていますが、実際は指示書と言うべきものです。この提言が出てきたのは、英国およびフランスで公共放送受信料の見直しが進んだためです。英国では2020年の総選挙でEU離脱問題が国会で承認が採れず敗北が予想された保守党が公共放送BBC受信料の廃止を公約に掲げ、大勝しました。保守党のこの公約は、今年の放送白書に明記され、BBC受信料は2028年3月に廃止されることが確実になっています。一方BBCは相当前からこの動きを予想し、ネット放送局への移行を準備しており、驚きはないと言われています。

この流れはフランスにも波及しています。今年3月の大統領選で現職のマクロン氏がフランス公共放送の受信料廃止を公約に掲げたのです。マクロン大統領は人気があるとは言えず、再選が危ぶまれていました。英国の保守党がBBC受信料の廃止を公約に掲げ大勝したことにヒントを得たものと思われます。予想通りマクロン氏は大勝し、5月には閣議で公共放送受信料の廃止を決定しました。フランス公共放送受信料は総額約4,000億円ですが、今後は当面国の予算で賄われるようです。これをそのまま税金で徴収することにはならないでしょうから、予算の縮小やネット放送局への転換が検討されることになると思われます。

このような流れの中で自民党小委員会の提言があります。これは次の選挙で立憲民主党や日本の維新の会あるいは参政党がNHK受信料の廃止を公約に掲げたら自民党の敗北もあり得るという危機感が背景にあると思われます(NHK党は論外)。

総務省の有識者会議のテーマはインターネット事業を本来業務と認めるかどうかとなっていますが、この結論は明確(認めないなどり得ない)なので、本当のテーマはインターネット放送への移行=放送業務の縮小=受信料の引き下げ、になると思われます。そうしないと自民党が持ちません。スクランブル化には踏み込まない可能性が高いですが、野党が選挙でスクランブル化を公約に掲げて議席を増やせば、自民党もスクランブル化に踏み込むしかなくなります。NHK受信料は選挙を左右する問題になっています。