NHKは受信料1割値下げで1割増収

NHKは11月11日、来年10月から受信料を1割下げる計画を発表しました。値下げの結果、地上契約は1,100円、衛星契約は1,950円となります。当初衛星契約のみの値下げが計画されていたようですが、自民党からそれでは残り半数を占める地上契約者に値下げの恩恵が及ばないと地上契約の値下げも迫られ、急遽追加したようです。

衛星契約は公共放送とは言えないという指摘が古くからあり、NHKは「検討します」としてそのままになっていました。そのため衛星放送については何らかのアクションが必要となっていたため、値下げは予想通りと言えます。一方地上契約については、NHKとしては公共放送であるという主張に揺るぎがないので、値下げは考えていなかったと思われます。これが急遽追加された背景には、自民党の要請以外にも国際的な公共放送受信料の見直しの動きがあります。先ず英国でBBC受信料を2028年3月で廃止する方向で検討が始まっています。これは2020年12月の総選挙で保守党が公約として掲げたものであり、この公約のおかげで保守党は選挙に大勝しました。従ってBBC受信料の廃止は間違いないと思われます。またフランスでは今年3月の大統領選挙で現職のマクロン大統領が公共放送の受信料廃止を公約に掲げ再選されました。マクロン大統領は公約通り5月に公共放送受信料(年間約4,000億円)を廃止しました。当面税金で賄い、今後どうするかは決まっていないとのことです。このように国際的に公共放送受信料は廃止の流れになっていました。このことについては、日本の新聞・テレビは報道しないため、殆どの国民が知らない状況です。しかしさすがにNHK予算案などを審査し、放送法改正権を持つ国会の総務委員会所属の国会議員は熟知しており、このままNHK受信料を放置していたら自分の選挙に影響すると考えたようです。そのため先ず自民党の「放送法の改正に関する小委員会」(ここが放送法改正の実権を握っている)が9月24日、NHKのインターネット活用業務を「本来業務」とすることを求める提言書を総務省に提出し、総務省は速やかに有識者会議を設けて検討を開始しました。これは英国BBCがテレビ放送からネット放送への転換を計画していることから、NHKもこれに備えるための動きと考えられます。このように国際的にもNHK受信料制度を維持するのは困難な状況になっていました。そのためNHKと自民党は受信料の値下げで時間稼ぎをする作戦のようです。

しかし値下げ発表と同時にNHKは受信契約を結ばない人や受信料を支払わない人に対して受信料の2倍を請求できるようにする規則の導入を計画していることが分かったことから、今回の受信料値下げの意味合いが大きく変わってきています。これが事実なら、今回の受信料値下げは、NHKの狡猾な増収戦略ということになります。受信契約を結ばない人や受信料を支払わいない人は、受信契約対象の約2割(約900万世帯)となります。現在の受信料収入は約7,000億円ですから、2割は約1,400億円となります。受信契約を結ばない人や支払わない人に対して2倍の受信料を請求できることになれば受信契約を結ぶ人や支払う人が増え、最大1,400億円の増収となります。半分の人にしか効果が無かったとしても約700億円の増収です。NHKは1割の値下げの結果約700億円の減収になりますが、2倍の受信料の請求が認められたら少なくとも値下げによる減収はカバーされ、上手くいくと増収になる可能性が高くなります。今回の受信料値下げの本当の狙いは、受信料の2倍請求による増収だったことになります。さすがみずほフィナンシャルグループ社長を務めた前田会長らしい狡猾な戦略です。

受信契約を結ばない人や受信料を払わない人の理由は、NHKは見ないことや契約を強制されることへの反発など所得以外もありますが、一番多いのは所得が少ないため払えない人です。それは日本の1世帯当たり所得で200万円未満が約20%を占めており、NHK受信料の不払い率約18%と近くなっていることからの推測です。受信料は所得に関係なく一律となっているため、低所得者には重い負担となっています。見る見ないに関わらず負担するのなら税金と同じであり、本来なら所得に応じた負担とするべきなのです。もし受信料の不払いに対して2倍の支払いが求められるとすれば、払う人は増えると思われますが、テレビ受信機を持たないことを選択する人も多いと思われます。その結果受信料を払っている人においてもテレビ受信機を持たない動きが強まり、一挙にテレビ離れを加速する可能性があります。

受信料の2倍請求計画は、NHKと自民党の共同案であり、自民党では国民の大多数が望むNHKスクランブル化は実現しません。NHKスクランブル化を望む人は選挙で自民党に投票しないことです。いずれ自民党はNHK受信料で政権の座を追われます。