日銀黒田総裁の最後の仕事は日銀保有国債の償却

円安が止まりません。10月20日に150円を突破し、21日には152円に迫りました。ちょっと急激だなと思っていたら、その夜財務省が円買い介入したようで、一時144円まで円が買い戻されました。それでもすぐ147円台になったので、介入効果は一時的だと思われます。円安は30年以上経済が停滞しているという日本経済の構造に起因しており、これが解消されない限り、今後も続きます。150円台は1990年8月以来と言うことであり、その頃から日本経済が成長していないことを考えると当然と言うことになります。世界の経済がこの間30%以上成長していることを考えると、200円まで下落して良いことになります。

もう一つの円安原因と言われる日本の低金利については、9月に消費者物価が3%上昇したことから、転換期に来ているように思われます。それでも日銀の黒田総裁は、この物価上昇は一時的であり賃金上昇を伴った経常的なものではないから、金利引き上げは必要ないと言う姿勢のようです。金利を0.25%引き上げたとしても0.5%であり、物価上昇を止められませんが、一方経済にも何ら影響しません。金利が低いために企業や個人が努力しない状態になっており、経済を強くするためには正常な金利状態に戻す必要があります。従って2%の金利までは躊躇なく引き上げるべきなのです。しかしそれを行うと国債の価格が下落し、日銀保有国債546兆円(10月10日現在)に多額の含み損が発生し、日銀が実質的に債務超過に陥るという不都合が発生します。また国は国債利払いが増加し、それを賄うために国債の発行が更に増加するという悪循環となります。日銀が利上げをしない理由は、これら日銀と国側の不都合が大きいと思われます。

日銀の黒田総裁の任期は来年4月8日までであり、ここに来ての急激な円安は、黒田総裁10年の評価が突きつけられているようです。黒田総裁は安倍首相と連携し、金融緩和による日本経済再興を図りましたが、全く効果を出せませんでした。黒田総裁が掲げた物価の2%上昇は達成されたようになっていますが、これは所得の増加を伴わない物価上昇であり、黒田総裁が掲げた目標とは異なります。こうなると黒田総裁は円を1990年代以前のドル円レートに戻した戦犯という評価となります。黒田総裁と二人三脚だった安倍首相の評価は、過半を超えた国葬への反対論に示されており、今後は国民から黒田批判が噴出すると思われます。

黒田総裁は9月の日銀政策決定会合で金融政策維持を決めた後の記者会見で、「当面、金利を引き上げることはない」と述べた上で「当面は数カ月ではなく2~3年の話と考えてもらっていい」と述べています。これは任期が半年しかない総裁としては有得ない発言であり、物価上昇と円安にプレッシャーを受けていることを露わにしました。

黒田総裁は10年前の就任時に大幅な金融緩和を発表しサプライズを演出したように、政策変更にはサプライズが必要と考えているように思われます。9月にあのような乱心レベルとも言える発言をしたのは、金利引き上げにサプライズ感を出すためとも考えられ、10月の金融政策決定会合での利上げは十分あり得ます。財務省の神田財務官は20日、円安阻止のための介入資金は「無限にある」と述べたという報道ですが、日経で介入に使える資金は19兆円程度と報道されているように、介入資金が「無限にある」などあり得ません。この発言で財務省も円安のプレッシャーを受けていることが分かりますので、これも10月に利上げを促す要因となります。

いずれにしても黒田総裁のハッピイリタイアメントは有得ません。サプライズ好きの黒田総裁に残されたサプライズは、日銀保有国債約546兆円(10月10日現在)の全部または一部を償却することです。日銀が利上げを躊躇する大きな原因は、利上げにより日銀保有国債に巨額の含み損が生じること、および国の国債利払いが膨らむことですから、国債残高を減らさない限り問題の根本的解決はありません。日銀は実質的に財務省の子会社であり国と一体ですから、日銀が買入れた国債は国が買入れた、即ち買入償却(償還)したのと同じ(日銀に払われた国債利息は国に納付されている)ですから、正式に償却すればよいのです。

実務的にはいくつか検討すべきことや法律改正が必要となるかもしれませんが、実体経済には何の影響もありません。これはプライマリーバランスが均衡した段階で実施するのが理想ですが、今の日本はこれを待っていられない状況だと思われます。またこれを実施するには胆力が求められますので、実施できる人は限られます。もう人生も終盤に差し掛かった黒田総裁なら出来るように思われます。