頭取選びをみれば住友とみずほの差は天と地

三井住友銀行が頭取交代を発表しました。新頭取は福留朗裕専務執行役だそうです。福留氏は2001年4月1日に三井銀行と住友銀行が合併して以来初の三井銀行入行者からの頭取となるようです。三井銀行は人の三井と言われ性格の良い伸び伸びした行員が多く、住友銀行はがめつい住友と言われ油断も隙も無い行員が多く、銀行業務で競争すれば住友銀行行員の勝は見えていましたから、これまで住友銀行入行者が頭取に就任していたのは実力主義の帰結だったと思われます。ここで三井銀行入行者が頭取に就任したということは、実力的にも両行入行者が均衡してきた結果のように思われます。合併したとき福沢氏は37才くらいであり、合併以降は住友銀行入行者と切磋琢磨してきているでしょうから、住友銀行入行者を上回る実績を上げていても全く不思議ではありません。大企業同士が合併するといずれかの企業の文化に収斂しますが、三井住友銀行の場合、住友銀行の文化に収斂するしか道はなく、福留氏は見事に住友銀行文化に適応したことになります。

福留氏の実績を見ると2018年のトヨタファイナンシャルグループ社長兼トヨタ常務役員就任が目につきます。私もこの新聞記事を見た覚えがありますが、このときは三井住友銀行を退職してトヨタに転籍したとばかり思っていました。多分本人もそのつもりだったと思います。しかしこれは三井住友銀行というより銀行界にとって驚天動地の出来事だったようで、それまでトヨタ銀行と言われるぐらい豊富な資金を持つトヨタは、銀行と距離をおいて付き合っていたようです。それが三井住友銀行の常務執行役員名古屋営業本部長を自社の常務役員(同格なのが凄い)に迎え、トヨタの販売金融部門(トヨタ銀行と言っても良い)を統括させたのですから、大転換です。福留氏にとっては大手柄ですし、三井住友銀行とトヨタのメインバンクを争っていた三菱UFJ銀行(トヨタのメインバックは旧東海銀行)にとっては赤恥ということになります。これが分かると福留氏を三井住友銀行に呼び戻し、今回頭取したのも理解できます。これにより三井住友銀行は、内外に三井住友銀行は実力主義を徹底していることを宣言したことになります。

これと対極にあるのがみずほ銀行の人事です。みずほは2021年にシステム障害を起こし、金融庁から経営が機能していないと厳しく糾弾され、2022年の1月に新経営体制を発表しています。ここで注目されたのはみずほフィナンシャルグループの社長に木原正裕執行役員を据えたことでした。フィナンシャルグループ社長はグループの指令塔であり、通常グループの最高実力者が就くポジションです。それが銀行(副頭取より昇格)より格下から就任しているのですから異常です。これではグループの指導力を発揮できるわけがありません。木原氏は岸田政権の木原官房副長官の兄であり、金融庁との調整が必要なみずほが木原官房副長官の威光を利用しようとしているとの声もあります。いずれにしても衆人が納得する実力主義人事とは思えません。案の定その弊害が感じられる取引が今年10月にありました。みずほ証券が楽天証券の株式2割を800億円で購入したのです。この狙いについては、リアルとネットの融合などと書かれていますが、実際は楽天モバイルの巨額設備投資により資金不足に陥った楽天グループへの資金支援であり、楽天の三木谷社長がみずほ銀行の母体の一つである興銀出身で、かつ木原社長が興銀および一橋大学で三木谷社長の1つ後輩であることが影響していると思われます。別に妥当な対価での取引なら良いのですが、総株数の2割で800億円と言うことは楽天証券を時価総額4,000億円で評価したことになり、高過ぎます。大和証券が今期経常利益約1,000億円で時価総額約9,000億円ですから、経常利益100億円台の楽天証券はその5分の1の2,000億円程度の時価総額が妥当です。本件取引は出資の形をとった資金融通であり、まともな銀行ならこんな取引しません。やはりみずほはみずほです。どんどん資産内容が悪化し、あるとき突然経営危機が表面化する事態が考えられます。

三井住友銀行の福留新頭取は一橋大学で木原社長の1つ先輩で、アイスホッケー部で一緒にプレーしたということですから、この関係で三井住友フィナンシャルグループとみずほフィナンシャルグループの合併を期待したいと思います。みずほの唯一の生き残り策だと思われます。