ソニー熊本に新工場建設、地震は100年以上心配なし

12月16日ソニーが熊本に画像センサー工場を新設するとの報道がありました。設備投資額は8,000億円とも言われています。ソニーの現画像センサー工場の隣接地には現在世界最大の半導体受託製造会社であるTSMCが約1兆円を掛けて工場を建設していますから、今後熊本は日本有数の半導体工場の集積地になります。熊本には日本の半導体産業が世界を席巻していた1980年代に多数の半導体工場が進出しました。その原因は、半導体工場で大量に必要な水に恵まれていること、若手の労働力が豊富なことと言われています。TSMCやソニーの新工場が出来て水が不足するのではないかと言われていますが、最近の大雨の増加を見ると心配ないと思われます。また労働力についても、熊本は若者の職場が少なく県外流出が続いており、まだまだ恵まれています。従ってこの2つの条件については1980年代と変わりません。

最近TSMC、ソニーと大工場の熊本建設が続くのは、地政学的リスクの高まりからだと思われます。ロシアのウクライナ侵略によりロシア産天然ガスや石油に依存していた欧州がエネルギー危機になりましたし、米中の経済対立によりお互いに必要なものが輸入できないという状態になっています。この結果特定の国や地域に原料や製品、部品などの供給を依存するのは危険過ぎるとの認識が広がり、これらの供給基地の分散化が進み始めました。半導体についてはTSMCが工場の殆どを台湾に置いており、中国の台湾武力統一による供給不全が懸念されます。そのためTSMCは顧客が多い米国に大工場を建設し、日本の顧客であるソニーのために熊本に工場を建設することにしました。従って今の半導体工場の相次ぐ熊本進出は世界の地政学的リスクの顕在化が原因ということになります。たまたまTSMCの大口顧客であるソニーの画像処理工場が熊本にあったことが幸運だったということです。

このソニー新工場建設の報道を受け、ネットの書き込みには地震を心配するものがいくつか見られます。これはTSMC工場建設のときと同じです。これについては、2016年の熊本地震の記憶がまだ鮮明なためだと思われます。しかし熊本の地震の歴史を調べて行くと熊本では今後少なくとも100年地震はないと考えて良いと思われます。2016年以前に熊本で大きな地震があったのは1889年7月28日となっています。熊本地方直下型でマグニチュード6.3(2016年の地震はマグニチュード7.3)ですから、かなり強い地震です。このときは熊本市周辺で20数名が死亡し、家屋数百棟が全半壊したとなっています。また熊本城の石垣が一部崩壊したようで、このときの雑な修復が2016年の大崩落に繋がっている箇所もあるようです。

その前は1625年に遡ります。マグニチュード5~6で熊本城内では50名程度の死者が出たと記録されています。この時も熊本城の石垣が相当崩壊したようですが、当時は江戸幕府の下平和な時代となり城は無用の長物化していましたので、財政問題もあり石垣の修復も雑で、2016年地震での石垣大崩壊の原因になっているようです。

このように熊本での大きな地震は264年、127年間隔となっており、関東大震災並みと言えます。従って地震が多いから熊本に工場を作るのは危険と言う考え方は、地震が多いから企業が東京に本社を置くのは、あるいは人が住むのは危険と言う考え方と同じく非現実的と言えます。

また水害が多いのではという声も見られますが、ソニーやTSMCが工場を建設する地域についてはその危険は全くありません。ネット書き込みで大分の方が大分から阿蘇を超えて熊本に入ると平地が続いており、まるで北海道のようだと書いていましたが、ソニーやTSMCが工場を建設する地域がまさにこの中心に当たります。極めて広々と開けた地域で自然災害の危険はあまり考えられません。これらの点についてはソニーもTSMCも十分に調べて、大丈夫と判断していると思われます。従って自然災害リスクは極めて少ないと言えます。