東京科学大学の実体は東京卓越受け皿大学
1月19日、2024年度の統合を目指す東京医科歯科大学と東京工業大学は新大学の名称を「東京科学大学」とすると発表しました。ビッグネーム同士の統合であり、東大と並び立つ大学となることが期待されるだけに新大学名は注目されましたが、余りにも平凡な名前で拍子抜けです。ネットの書き込みを見ると「私大のFラン感溢れる名前」という感想がかなり見られます。一方落ち着いた名前だと評価する声もありますが、こちらは決まったものをあれこれ言っても仕方ないという分別ある方の意見のように思われます。以外に多いのが東京医科歯科大学と東京工業大学という名前は、日本でも世界でも知られているのだから、東京医科歯科工業大学でも良かったのではないかという意見です。メガバンク誕生の際に合併行の名前をそのまま残した(三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行)ことからも分かるように、統合する2つの当事者の名声を引き継ぐには悪くない方法です。それに三菱東京UFJ銀行は合併時のTOP行の地位を維持していますし、三井住友銀行は住友の強烈な利益追求のカルチャーに染まり高い収益力の銀行になっていますから、少なくとも統合前より悪くなることはありません。一方日本興業銀行、富士銀行および第一勧業銀行という3つの大銀行が合併して全く新しい名前を採用したみずほ銀行は、依って立つカルチャーがなくなり迷走を続けています。こう考えると統合の効果が出始めるまでは東京医科歯科工業大学という名前というのも実利的選択だったと思えます。
東京医科歯科大学と東京工業大学と言えば、医科歯科総合大学および工業専門大学としては日本一の評価であり、かつ東大の次の入試難易度を誇り、子供の減少による定員割れの恐れもないことから、両大学が置かれた環境としては統合の必要性は出てきません。それにもかかわらず両大学が統合に踏み出し、かつ急いだのは文部科学省が進める国際卓越大学に選ばれるためと思われます。国際卓越大学制度は世界の評価が高い大学と伍していける大学を作ることを目的としており、これに選ばれるのは国立大学数校と言われています。東大京大は確実ですが、後の大学は決め手がない状況です。そのためか大学ではなく著名な業績を上げている研究者がいる研究室を国際卓越大学制度の資金で支援するとの話も出てきているようです。文部科学省としては、最低3校は国際卓越大学に指定したいと思われ、無いなら作ればよいと考え、東京医科歯科大学と東京工業大学に統合を働きかけたものと思われます。これを受けた両校は国際卓越大学に指名されるにはこれしか方法がないことから、急ぎ統合だけ決定したのでしょう。それが新大学名の生煮え感に表れています。またこれまでトップを目指したことのない両大学の志の低さの表れとも言えます。
東京医科歯科大学は医科および歯科とも医師および歯科医という実務家養成が大学の中心課題であり、東大、京大のように基礎科学が中心の大学ではありません。また東京工業大学も工業技術者や開発技術者の養成が中心課題であり、これもまた基礎科学が中心の大学ではありません。従ってこの両校の統合大学を科学で括るのは違和感があります。
アスキー創業者西和彦氏が2025年開校を目指して「日本先端工科大学」(仮称)の開校準備を進めているとのことですが、東京工業大学はこの先達であり、東京医科歯科大学は医科歯科系の同じ類型と言えます。これから求められる大学は、両大学が目指す方向(医学と工学の融合)ではなく西氏の日本先端工業大学や日本電産の永守会長の京都先端科学大学が目指す狭い範囲の尖がった専門性を極める方向ではないでしょうか。両大学の統合は国際卓越大学の受け皿狙いであり、あまり良い効果は期待できないと思われます。国際卓越大学は東大、京大の2校で十分だし、東大、京大にしても定員を半分にして学生の質を高める必要があるくらいです。