TSMC進出の菊陽町に工場用地がない?一面畑だらけ!

熊本県菊陽町では世界一の半導体受託製造会社TSMCの工場建設が急ピッチで進んでいます。それに合わせてTSMCに製造機器や部材などを供給するメーカーが進出を希望し、菊陽町への問い合わせは200社を超えているそうですが、菊陽町役場では「工場用地が無い」と言っているとのことです。菊陽町にはもともとソニーのCMOSセンサー工場があり、これにTSMCがロジック半導体を供給していたため、TSMCがここの隣地に工場を作ることになったのですが、それ以外には大きな工場は無く町の大部分には広大な畑が広がっています。だからこの「工場用地が無い」と言う言葉は実体と合わないように思われます。確かに広大な整備された畑があるのですが、そこは農業振興地域に指定されており、ほぼ他の用途への転換は認められない取扱いになっているようです。しかしこの指定は物理的理由で決まったわけではなく、人間が便宜上決めたものですから、状況に応じて変更が可能なはずです。農業振興地域指定の元になっている市町村の農業振興地域整備計画を見直して農業振興地域から外すことができます。そうなれば工場用地として整備することが可能となります。農地の所有者は後継者がいない人が多いと思われますし、売却後は進出企業や県または町の関連団体での雇用を保証すれば、今以上の安定した生活ができます。

菊陽町は熊本市と隣接していることから熊本市内住民向けの野菜の栽培が盛んなようです。特に人参は日本有数の栽培量を誇るようです。しかしこれは他の地域でも可能であり、菊陽町の農地でないと作れないものではありません。一方現在進出を希望している工場は、TSMCの工場に納品する必要から菊陽町に工場を作るのがベストです。こう考えると菊陽町は全体的に農業振興地域の指定を見直すのが良いと思われます。

TSMCは日本に第2工場を造る計画のようですが、熊本県としても誘致したいところです。特に菊陽町には第1工場が立地していることから、近くに立地すれば管理部門の重複が省ける、納入業者の工場から大量に購入でき仕入価格が下がるなどのアドバンテージがあります。一方現在の工場はソニーの菊陽工場が大口顧客となるため菊陽町(ソニーの工場の隣地)に立地したと考えられますが、第2工場の大口顧客は日本デンソー(トヨタ向け車載半導体)と考えられ、日本デンソーまたはトヨタの工場が多い地域に工場を作ることが考えられます。となると愛知県が有力候補となります。TSMCが熊本に立地した理由としてよく豊富な地下水が挙げられますが、これは同じく阿蘇カルデラから流れ出る大分も同じであり、後背に九州山地を持つ宮崎も同じです。TSMCの台湾工場は地下水に依存しているわけではく、工業用水が主力と思われ、地下水は言われる程TSMCにとって魅力ではないと思われます。そうなるとTSMCの第2工場を熊本に立地させるには、第1工場の近くに工場用地を確保するしかありません。

最近熊本では小規模の地震が頻発しており、TSMC関係者は熊本に工場を作ってよかったのか不安に思うことが多くなっていると考えられます。もしTSMCの第2工場を誘致するなら、なるべく早く第1工場の近くに工場用地を提供できることを表明し、誘致活動を行う必要があると思われます。

追伸:2nmの先端半導体の生産を目指す国策会社RAPIDUSが北海道千歳市に工場を作ることが有力となっていますが、千歳市には日本デンソーも大きな車載半導体工場を持っています。RAPIDUSは今後の拡張を考えると広大な土地が必要と言っており、千歳市にはRAPIDUSに納入する半導体関連企業が集積する可能性があります。TSMCの本社がある台湾のサイエンスパークは600haの広さと言われており、TSMCと世界一を争う韓国サムスン電子の半導体工場も数百haの広さを誇ります。これによって半導体の生産に必要な企業が全て集まり、高品質と低コストを実現しています。RAPIDUSを支援する経産省は千歳市にこれらに負けない半導体企業の集積地帯を作ろうとしているのかも知れません。TSMC熊本工場の建設資金は約1兆円ですが、RAPIDUSに投じられる資金は約10兆円と言われており、スケールが違います。菊陽町が農業振興地域であることを理由に工場用地がないというなら、勝負は明らかです。今後TSMCの第2工場はもちろん多くの関連企業も千歳市に大型工場を作り、熊本には小規模な工場が立地することになります。菊陽町がもっと早く農業振興地域の見直しをしていれば、ソニーがCMOSセンサー工場を諫早に作ることもなかったと思われ、同じ轍を踏まないで欲しいものです。