日銀の資金繰りが破綻していることを証明する

政府から日銀の次の総裁・副総裁候補が発表されました。総裁候補が植田和男元東大教授、副総裁候補が氷見野良三前金融庁長官と内田真一現日銀理事となっています。マスコミでは初めての学者出身総裁として植田氏に注目が集まっていますが、本当の注目点は、前金融庁長官が副総裁に就任したことだと思われます。

日本銀行法第3条第1項は「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」として金融政策の独立性を定めていますし、同第5条第2項は「日本銀行の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならない」として業務運営の独立性を定めています。どこからの独立性かというと前者については政府からであり、後者については金融庁からと言うことができると思われます。そのため政府は日銀の金融政策決定への介入を控えてきたし、金融庁も銀行としての日銀検査を控えて来ました。しかし黒田総裁10年間に日銀が国の経済対策の大きな部分を肩代わりした結果、日銀のバランスシートが破綻に瀕しており、この影響が銀行システムに及ぶことが避けられなくなっています。

以下に日銀のバランスシートから日銀の資金繰りが破綻していることを証明します。

日銀の2023年2月10日付営業毎旬報告で日銀のバランスシートを見ていきます。このバランスシートには土地や建物、器具備品等が載っていない(国有資産?)点で一般企業のバランスシートとは異なっています。その前提でこのバランスシートを見て行くと、総資産は約735兆円で、このうち国債が約584兆円と全体の約79%を占めます。次が貸付金約92兆円、上場投資信託(ETF)約37兆円となります。この3つで総資産の約97%を占めますので、日銀の銀行としての業務の大部分は銀行への貸付、国債およびETFでの運用の3つということになります。これらの原資である負債勘定を見ると、当座預金が約515兆円と全体の約70%を占めます。次に大きいのが発行銀行券(日銀券)の約122兆円です。3番目が政府預金約45兆円、4番目がその他預金約33兆円、5番目に引当金約8兆円となります。これで99%以上となり、残りは準備金約3兆円でこれが自己資本となります(資本金は1億円)。ただし日銀に属する日銀券約122兆円と引当金約8兆円は自己資本と見ることもでき、そうなると自己資本は約134兆円となります。

これを見ると日銀のバランスシートはピカピカのように見えます。しかし資産の実体とその原資の性質を良く見て行くと、運用と調達がアンバランスになっており、黒字倒産会社(損益は黒字だが資金繰りがつかない)のバランスシートに近いことが分かります。と言うのは、国債約584兆円は市場金利を日銀が計画する範囲内に抑えるために日銀が買い支えているものであり、売却すれば金利が上昇するため売却できません。ということは、国債約584億円は流動性資産ではなく長期性資産(固定資産)と言うことになります。またETFも売却すれば株価が下落するため、長期保有が前提となっています。一方それらの主な原資である当座預金は、本来いつでも引き出せる資金であり、流動性負債の代表です。即ち長期に換金できない資産をいつ返還を求められるか分からない資金で買っているということです。例えれば自宅を購入するのに長期の住宅ローンではなく、短期借入金で購入するようなものです。実際日銀の営業毎旬報告を見ると国債残高が当座預金残高を上回る状態が続いており、当座預金残高だけでは国債を保有できなくなっています。例えば2月10日では国債残高約584兆円に対し、当座預金残高約515兆円と当座預金残高が約69兆円少なってなっています。これは当座預金を銀行が引き出したことが原因です。この不足分は通常なら日銀券約122兆円が充てられるのですが、日銀券約122兆円は引当金7兆円と共に貸付金約92兆円とETF約37兆円の原資となっていると考えられます。その結果政府預金約45兆円とその他預金約33のうち約69兆円が当座預金の不足分69兆円に充てられていることになります。残りの原資として政府預金とその他預金の余り約9兆円は外国銀行への預け金や外国債券約9兆円に充てられていますので、残るは準備金約3兆と引当金の余り約1兆円の約4兆円となります。この結果、日銀は銀行から5兆円以上当座預金の返還要求があれば国債を売却しないと返還できず、かといって国債を売却すれば国債金利が上昇する(国債の含み損も膨らむ)ことから売却もできず、結局日銀は銀行に当座預金の引き出しを待ってもらうしかなくなります。借入先が返済できず銀行に返済の猶予を求めるのと同じ状態です。日銀はこんな状態にある、即ち資金繰りに詰まっているということになります。尚、日銀は日銀券を発行できるのだから発行すればよいとも考えられますが、当座預金を返還するために日銀券を発行することは通常できません。それは民間銀行が顧客に預金を返還するために自己融資するのと同じであり、民間銀行なら破綻処理です。

日銀をこんな状態にした最高責任者はもちろん黒田総裁ですが、黒田総裁は銀行経営の経験がなく、また本人には金融政策責任者としての認識しかありませんから、日銀経営については責任無能力者と言えます。総裁・副総裁の中で銀行経営のことが分かり責任を問えるのは日銀出身である雨宮副総裁だけです。雨宮副総裁の使命は日銀経営の観点から金融政策に意見し、日銀がこういう状態にならないようにすることであったと思われます。雨宮副総裁は大概の上司には合わせられるカメレオンみたいな人という世評ですが、これが仇となったようです。この結果日銀を資金繰り破綻に追い込んだ戦犯は雨宮副総裁ということになります。