熊本菊陽町の土地値上がりはバブルではなく実需

台湾の世界最大の半導体受託生産メーカーTSMCの工場建設が進む熊本県菊陽町では、関連企業の進出や倉庫用地、従業員向け住宅用地の需要が増大し、地価が高騰していると言う報道です。昨年秋の調査で 工業地の地価上昇率は31.6%(21年度は2.4%)、商業地は13.6%、住宅地は7.7%(今年1月20.8%%)となっています。工業地については全国一の上昇率のようです。

今年に入っても菊陽町の事業用途に転換できる用地の地価は2~3倍に上昇しているようで、転換可能な土地があれば不動産業者や銀行が片っ端から買い上げていると言われています。菊陽町を車で通ると分かるのですが、菊陽町の多くは畑が占めています。それも区画された優良農地です。実はこれが土地不足の原因になっています。優良農地であるため農業振興地域に指定されておりその他の用途に転換できない決まりになっているのです。建設中のTSMC工場の写真では、道路を挟んで反対側に広大な畑が見えますが、あれも専用農地のため事業用地への転用はできないようです。そのため事業用地や住宅用地を巡って買収合戦が起こっているようです。

これをもって新聞や雑誌では「土地バブルが起こっている」と書いているものが見られますが、間違っています。これはバブルではなく実需です。1980年代の土地バブルは輸出で稼いだ外貨が円に交換され、国内に溢れた円が土地への投機に向かって起きました。同じ土地や建物が何回も転売され、高騰して行きました。それに連れて周りの土地の評価も上がりました。決してその土地から上がる収益に応じた土地の値上がりではありませんでした。このためバブルと言えました。しかし菊陽町の土地需要は多くが事業用途であり、採算が合う価格でないと購入されません。持っていて値上がりを狙う土地ではありません。従ってバブルではなく実需と言えます。

日本人は貧乏が好きなようでちょっと値上がりするとバブルバブルと騒ぎます。1980年代のバブルも実は豊かになるプロセスで起きたもので、何もしなければ時間をかけて落ち着くところに落ち着いたと考えられます。それは高値と比べれば半値位になったかも知れませんが、バブル前と比べたら倍以上の価格になっていたと思われます。こうして物価や賃金水準は上がって行くのですが、日銀が流通する資金量を絞り込んだ(総量規制)ためバブル前まで下落し、その後30年以上物価や賃金が戻らなくなってしまいました。あのときの日銀の総量規制は歴史上最悪の金融政策だったと思われます。こう考えると菊陽町の値上がりは実需に基づく良い値上がりであり、歓迎すべきものです。くれぐれもバブルと考えて潰しに行く愚行はあってはなりません。

ただし菊陽町では、今後農業振興地域や市街化調整区域の見直しが進み、大量の土地が供給されるようになり、土地価格は妥当な水準に収束することになります。この見直しが行われないとすれば、菊陽町にとってまたとない発展のチャンスを無くす愚行と言えます。