銀行は日銀当座預金に引当金を積む必要がある

3月29日の日経電子版によると、日銀の内田真一副総裁は29日の衆議院財務金融委員会で、長期金利が2%に上昇した場合に日銀の保有国債に生じる含み損が約50兆円になるとの試算を示したとのことです。この記事では「日銀は国債について満期保有を前提とした会計処理を採用しており、含み損が発生しても直ちに経営は悪化しない」と書いていますが、果たしてそうでしょうか。日銀は景気の状況により国債を購入したり売却したりするわけだから、満期の途中で売却し含み損が実現することもあり得ます。3月に破綻した米国シリコンバレーバンク(SVB)は昨年12月末で満期保有債券の含み損が約160億ドルあったことが破綻の原因になりました。日銀との違いは、SVBは債権を顧客の預金を原資して購入しているのに対し、日銀は国債を日銀当座預金を原資として購入している点です。SVBの場合160億ドルの含み損があることを知った顧客が預金の引き出しに動き、SVBはこれに応じられなくなった結果破綻となりました。一方日銀も日銀当座預金という預金で国債を購入している点ではSVBと同じです。更にSBVは定期預金など長期性の預金があったのに対し、日銀は当座預金といういつでも引き出せる預金が原資です。従って購入原資としては日銀の方が危ないと言えます。なのに日経の記事が経営に影響しないと言っているのは、日銀当座預金はSVBのように引き出しが殺到することはないと考えているからです。果たしてそうでしょうか。

日銀当座預金は法律で銀行が日銀に預けることを義務付けられている預金準備金(取立て騒動などに備えるため)と銀行間決済の資金、国債を日銀に売却した資金などです。預金準備金(当座預金の10%もない)を除き必要無くなったら速やかに引き出すべき資金ですが、この資金に対して日銀が0.1%の金利を付けているため引き出さずに置いているのです。0.1%と言えば銀行の1年定期預金並みの金利であり、運用先がない銀行にとっては有難い資金運用となります。そのため当座預金と言いながら永久劣後債的な資金となっているのです。日銀職員が書いた資料によると日銀定期預金が減少するのは、銀行が新たに国債を購入したときや日銀から借入をしていればこれを返済したときだけとなっています。日本の銀行が国債を購入する場合、SVBのように顧客の預金を原資としているのでなく信用創造としての預金(擬制債務として預金勘定を建てる)を原資としているため、債権者がおらず返還を求められることはありません(コストも0)。従っていつまでも日銀当座預金に置いておくことが可能となります。

ならば日銀保有の国債にいくら含み損があっても問題ないことになりますが、よく考えるとこうは行かないことが分かります。日銀毎旬営業報告を見ると3月20日現在日銀は約580兆円の国債を保有しており、当座預金は約533兆円となっています。と言うことは、当座預金は全額国債に変わっていることになります。金利が2%になればこの内50兆円(国債約580兆円×2%=約12兆円なのに何故50兆円になるのはか不明)が回収できないと言うことであり、このまま推移すれば国債の満期に46兆円(50兆円×(533÷580))の日銀当座預金が返還不能となります。日銀は日銀券を発行できるのだから、日銀券を発行すれば返還できると考える人もいると思いますが、これは銀行が顧客の預金を返還するために自行宛に融資することと同じであり、出来ません。そうなると銀行にとって日銀当座預金が返還されない可能性があるということになり、銀行は国債の含み損に応じて日銀当座預金に引当金を積む必要があるとの議論になります。日本の銀行や監査法人がこんなことを言い出すかどうか疑問ですが、外国銀行や外国証券会社も日銀に当座預金口座を持っているので、彼らならこのリスクを理解し日銀当座預金の引き揚げに動く可能性があります。日銀は日銀当座預金が引き出されることは無い前提で資金繰りを行っていますから、現在は20~30兆円の引き出しがあれば対応できない状態です。このように日銀の国債含み損問題は日銀や銀行を揺るがす問題になり得ます。