日銀植田総裁様、バランスシート改善のご提案

今日から植田和男氏が日銀の総裁に就任します。黒田前総裁は10年前2年間で物価を2%引き上げて見せると大見えを切って大規模金融緩和策を実施ましたが、上がったのは株価と不動産価格だけで物価は殆ど上がりませんでした。当然で物価の上昇には経済活動の活発化、賃金の上昇が必要ですが、これは大規模金融緩和だけでは実現せず、財政政策や経済政策との連動が必要です。黒田氏を日銀総裁に任命した安倍首相は、これらの3つの政策(日銀の大規模金融緩和、機動的な財政出動及び民間投資を喚起する成長政策)を実施して物価2%上昇を伴う経済成長を実現すると宣言していましたが、大規模金融緩和で株価や不動産価格が急上昇して好況感が出てきたため、政府が行うこととなっていた財政出動と成長政策がなおざりとなってしまいました。その結果実体経済は大規模金融緩和前とそんなに変わらない状態が続き、大規模金融緩和を維持するしかない状態が10年続きました。そして黒田総裁の任期が残り1年くらいとなったとき、コロナの流行やウクライナ戦争により世界経済が混乱し世界的に物価が上昇したため日本の物価も上昇し、今年に入り2%を超える水準になっています。これを受け今年は5~10%の賃上げを表明する企業が多くなっており、黒田総裁が物価2%上昇に拘った理由が分かる結果となっています。結局黒田総裁は10年掛けて物価が上昇をすれば賃金があがることを証明したことになります。

この証明のために日銀に無理を強いた結果、日銀のバランスシートは財務知識がある人が見れば目を覆いたくなるような無残な状態になっています。資産は国債など優良資産で占められていますが、原資とのミスマッチが著しくそれこそ「勘定足りて銭足らず」の状態です。

具体的に説明すると、3月31日付の日銀毎旬営業報告を見ると資産としては国債が約581兆円で資産の約79%を占めます。これの購入原資は何かというと当座預金約549兆円で負債の約75%を占めます。即ち日銀は当座預金の運用として国債を購入していることになります。国債がいつでも売却できる状態ならこれでも良いのですが、現在日銀は長期金利の上昇を抑えるために国債を購入しており、売却できない状態です。即ち国債約580兆円は売却できない資産=固定資産となっているのです。固定資産は自己資本および長期性負債で購入すると言うのが財務上の鉄則ですが、日銀の場合この原資が当座預金と言ういつでも引き出しできる資金(一部は預金準備金という引き出せない資金があるが全体の10%にも満たない)となっており、黒字倒産企業と同じ状態です。それでもこれで日銀の資金繰りが続いているのは、日銀当座預金が民間銀行の当座預金と違って余り引き出されないからです。では引き出せない性格のものかというと言うとそんなことはありません。日銀当座預金も民間銀行の当座預金と同じようにいつでも引き出せます。日銀当座預金は銀行など(484金融機関)が国債を日銀に売却した資金や銀行などで余っている資金であり、日銀当座預金に預けていれば0.1%の金利が付くことから、銀行などは置いたままにしているのです。要するに日銀当座預金は民間金融機関の遊んでいるお金の受け皿であり、金融機関への利益補填(年間約5,000億円)の役割を果たしています。そのため当座預金と言いながら永久劣後債的な性格の資金となっています。

しかし国債が含み損を持ち始めるとそうは行きません。日銀の内田副総裁が3月に国会で行った説明によると国債の金利が2%になると日銀保有国債の含み損は約50兆円になると言うことですから、国債の購入原資となっている日銀口座預金はこの分返還されない可能性が出てきます。日銀は日銀券を発行できるから日銀券を発行して返還できると言う人もいると思いますが、それは民間銀行が預金を返還するのに自己融資をするのと同じであり、できないと考えるべきです。この考え方に基づくと日銀に当座預金を持っている銀行は日銀保有国債の含み損に応じて日銀当座預金に引当金を積む必要があることになります。そもそも政府は、国債は税収で償還されるとの立場ですが、税収不足のため毎年20兆円を超える国債を発行していることを考えると将来にわたり税収で国債を償還するのは不可能であり、政府の今の立場に依れば日銀保有国債の購入原資となっている日銀当座預金は最終的には回収不能となることになります。

こういった問題がある日銀のバランスシートの改善が日銀経営者としての植田総裁の1つのテーマとなりますが、僭越ながら私の考える改善策を2つご提案いたします。

1つは国債の購入原資の大部分(約400兆円)は日銀券とすることです。現在日銀券(発行銀行券)は約122兆円となっていますが、これを約400兆円に増やし全額国債購入資金に充てます。約400兆円というのは日銀保有国債で長期的に売却できない部分(塩漬け部分)の金額です。残りの国債は金融調節として購入や売却を繰り返す部分として日銀当座預金を充てても良いと思われます。国債は日銀券の範囲内で購入していた時代もあるようですので、本来の姿に戻るだけです。黒田総裁時代の日銀が日銀券を増やさなかったのは、財政法5条で日銀が直接国債を引き受けることや国に融資することが禁じられており、日銀券を発行して国債を購入すれば財政法5条の脱法行為との指摘が出て来るためではないかと思われます。日銀が国債発行残高の6割近くを保有する今の状態は、実質的に財政法5条が禁じている財政ファイナンスの状態であり、これがないと国の財政がまわらないとことを考えると財政法5条が実体に合わなくなっていることになります。従って日銀としては財政法5条の削除を国に働き掛ける必要があります。

2つめにETF(信託財産指数連動型上場投資信託)約37兆円の処分です。これは購入当初は徐々に処分することが考えられていたと思われますが、その後株価が下がったため、或いは市場で処分すれば下がる恐れがあるため処分できなくなっています。そのため処分できない国債と相俟って日銀の資金繰りの障害になっています。問題はどうやって処分するかですが、年金積立金管理運用独立行政法人や今後組成される大学ファンドへの売却が考えられます。子育て支援に使うための資金をねん出するため数10兆円のファンドを作りそこに移管することも考えられます。ETFは数%の配当収入があると思われ、ファンドの収入源になります。

この2つのことをやらないと日銀のバランスシートは正常化しないと思われます。

もう1つ植田総裁が早々にやるべきこととして日銀の上場廃止があります。日銀は東証に上場していますが、上場基準を満たしておらず東証改革の妨げになっています。経過措置で2026年4月までは上場を維持できるようですが、出来高が少なくネット上で上場廃止になったという噂が飛び交う事態になっています。そもそも通貨発行権を持った中央銀行が上場していると言うのが異常であり、早々自主的に上場廃止を決められた方が良いと思われます。