国債は日銀当座預金と相殺されることになる

6月16日、植田和男総裁になって2度目の日銀政策決定会合が終わり、金融政策は現状維持となりました。サプライズ好きの黒田前総裁と違って植田総裁の場合はサプライズはないという安心感があります。これを気にしてか植田総裁は記者会見で、将来的には「サプライズもやむを得ない」と語ったようです。この意味は将来的には利上げもあるということであり、黒田前総裁のサプライズとは全く異なるものです。黒田総裁のサプライズは、市場関係者が予期していないことをやると言う意味であり、植田総裁の場合これは考えられないと思われます。今回の金融政策据置決定も論理的に当然の帰結であり、市場関係者の想定通りと言えます。

金融正常化についてはじっくりやるしかないと思われますが、日銀のバランスシートの改善については少し急いだ方が良いように思われます。6月10日の日銀営業毎旬報告を見ると国債残高592兆円に対し、その原資となる日銀当座預金が532兆円となっており、その差が約60兆円となっています。普通この不足を埋めるのには日銀券約120兆円が充てられるのですが、日銀券約120兆円は貸付金約93兆円および信託財産指数連動型上場投資信託(ETF)約37兆円の購入資金に充てられており、代わりに政府預金約40兆円とその他預金35兆円が充てられていることになります。これで十分にバランスしているように見えますが、国債は金利が上昇しないように日銀が買入れ保有しており、言わば売れない資産(固定資産、長期資産)状態です。この購入原資としていつ引き出されるか分からない当座預金や預金など流動性の高い資金を充てており、資金繰り上は危ないバランスシート状態です。当座預金が1日に10兆円も引き出されたら日銀は応じられない状態になります。どうも日銀当座預金は当座預金と言いながら大量に引き出されることはない資金のような取扱い(日銀と銀行間の合意)になっているようで、日銀も銀行も余り気にする様子はありません。

国債残高は現在1,000兆円を超えており、防衛費増額やこども対策費も国債が充てられるようなので、国債が最終的に返済不能となり処理しなければならないときが必ず来ます。政府は、国債は税収で償還されると言う立場で隙あれば増税を言い出しますが、税収が少なくて毎年の予算でも国債を20兆円以上発行して賄っているのに、税収で国債残高を償還する状態が来るなどあり得ません。ではその場合にどのように国債を償還する(処理する)かと言うと、日銀のバランスシートで国債残高と日銀券残高を相殺して国債を消滅させます。日銀券は負債ですが個人の銀行からの借入金のように債権者(銀行)がいませんから、消えてなくなっても誰の懐も痛みません。国債の仕組みが考えられた時点でこのことが考えられていたと思われます。国は永遠に続くことが必要であり、国債の償還不能ぐらいで倒産させるわけにはいかないことから、当然の仕組みと言えます。但し現在の日銀のバランスシートを見ると、国債は日銀当座預金とその他の預金で購入されており、このまま行けば国債と日銀当座預金が相殺されることになります。もちろん、日銀券約120兆円については優先して相殺されることになると思われますが、不足する約470兆円については日銀当座預金と相殺されることになります。日銀当座預金は銀行などのバランスシート上預金として資産の部に計上されており、これが相殺されれば銀行などは損失を計上しなければならなくなります。金額が金額だけに普通なら多くの金融機関が倒産してしまいます。しかしそうはならないのです。日銀当座預金は銀行などが購入した国債を日銀が買入れた代金が主(その他に法定準備預金や銀行の余剰資金など)ですが、この原資は銀行が信用創造で作り出したもの(負債の部の預金勘定に金額を書き込めばよい)であり、債権者がいないのです(日銀券と同じ)。従って相殺されれば預金を債権者に返還できないと言う問題は生じません。問題となるのは、決算書に相殺になった額の損失を計上しなければならないことで、この結果債務超過になる銀行が続出することです。これについては法律で損失を計上しなくても良いことにすれば解決します。日銀券で相殺する場合でも法律の手当ては必要であり、プロセスは変わりません。従って日銀当座預金と国債を相殺することは十分ありだと思われます。ただし常識的には国債の購入原資は日銀券となるように国債を増発し、その分日銀当座預金は銀行などに返還することになると思われます。新聞などでは国債の増加で国が潰れるとか大増税になるとか恐ろしいことが言われていますが、実際はこのような簡単な処理(相殺伝票を1枚入れればよい)で済みます。これが分かれば税金を廃止して予算に必要なお金は国債で賄えばよいとなるので、政府も学者も国民には隠しています。植田総裁としては、国債を日銀当座預金と相殺するようなことにならないようバンランスシートの正常化(国債のうち金融調節に使わない約400兆円の原資には日銀券を充てる。日銀券を400兆円まで増やす)は急がれた方がよいと思われます。