損保不正の根っこは金融庁の腐敗にある

ビッグモーター(BM)が水増しした修理代金を保険請求していた事件の構図が明らかになるにつれて、最初は被害者と見られていた損保が実は共犯であることが明らかになっています。損保はBMに出向者を出し、事故車の修理紹介1件と自賠責保険の紹介5件をバーター取引していたということです。出向者はこれらの取引の交通整理をしていたことになります。これだけならさほど問題ないのですが、その後BMが事故車両に傷を付けるなどして修理代金の水増しを始めたことに気付きながら黙認していた可能性が高くなっています。事故車の修理に保険を使う場合、損保のアジャスターと言われる調査者が修理の妥当性を評価しますから、水増し請求が増えるとアジャスターや保険請求金額をチェックする部署ならすぐ分かります。コンピュータシステムでも異常を指摘するようになっていると思われます。従って損保社内ではどこかの時点でBMからの保険金請求額の異常を指摘する声が出て、出向者は調査を求められたと思われます。むろん出向者には調査権限はありませんから、調べてすぐに分かることは無かったと思われますが、何らかの不正な修理を行っていることは分かったはずです。このことは本社に伝えられ、本社の関係部門で対応が協議されたと思われます。その際にBMから獲得する自賠責保険の保険料のメリットが不正請求される保険金額のデメリットより大きいと判断され、不正請求を黙認することに決定されたと思われます。事実保険金は保険契約者が支払った保険料をプールし、損保の運営経費(損保は高給で知られている)を控除した残りから支払われ、足りなくなれば保険料を上げれば済みますから、損保の懐は痛みません。損保としては体面上獲得保険件数や保険料を増やせばよく、ここでは保険契約者の利益など考慮されません。要するに相互扶助である自動車保険が運営受託者である損保の金儲け(高給を食むため)の手段化しているのです。

損保大手3社は最近東急グループに対する損害保険の提案で公正取引委員会からカルテルの疑いを掛けられ、これを認めています。「やけにあっさり認めたな」と思っていたら仙台空港会社への提案でもカルテルの疑いが浮上しています。と言うか、損保の営業全体がカルテルです。例えば大手企業と損害保険契約を結ぶ場合、大手3社を中心とした多くの損保が参加し、細かくシェアを割振ります。シェアの割振りでは幹事を獲得した損保が主導権を発揮し、以後この会社の損害保険については幹事お任せとなります。この構造が殆どの保険契約で見られることから、幹事になることが多い大手3社はお互い様の関係であり、いつでも話し合える関係にあります。従ってカルテルは損保業界に付き物と言えると思われます。

今回BMの車両保険不正請求事件で損保が実はBMの共犯であることが明らかになったことから、損保の不正体質が浮き彫りになりました。これはBMで悪質さが際立つ損保ジャパンだけの問題ではありません。ではなぜ損保がこうなってしまったのかと言うと、監督官庁である金融庁の腐敗に行き着きます。BMの不正請求については少なくとも2021年秋に報道されており、金融庁も知ったはずです。そして2022年2月にはサンプル調査で不正が確認されていますから、この段階で調査に入っておかしくないと思われます。そして2023年2月にはBMで不正車検が発覚していますから、保険不正請求の根深さが意識されて然るべきでした。これでも金融庁が動かなかった点に注目すべきだと思われます。

金融庁には近年明らかに変化が見られます。それは金融庁長官経験者が金融業界の経営幹部になっていることです。例えば2004~2007年に長官を務めた五味廣文氏が2017年6月に傘下にSBI証券、住信SBIネット銀行などの金融機関を抱えるSBIホールディングの社外取締役に就任し、2022年2月には新生銀行会長に就任しています。五味氏は金融庁長官退任後監督先である金融機関に天下らなかったことから、私は高潔な人だと評価していました。それが長官退任から10年経ったからとは言え金融機関の経営陣に天下ったことには驚きました。「これが金融庁幹部が次々と金融機関に天下るきっかけとならなければよいが」と考えていたら、2018~2020年に長官を務めた遠藤俊英氏は退官4カ月後の11月には富国生命顧問、2021年1月には東京海上日動顧問、そして今年6月にソニーフィナンシャルグループ(傘下にソニー銀行、ソニー生命、ソニー損保を抱える)代表取締役(社長)に就任しています。これらの会社では金融庁の検査は骨抜きになってしまいます。それ以上に金融庁の職員は退官後監督先の金融機関に天下るため、検査に手心を加えるようになります。企業が監督機関から天下りを受入れる場合、在職中に自社に何らかの貢献(検査の目こぼし)をした人になるのは自明なことです。この結果金融庁の金融機関に対する監督は形骸化することになります。もう既に損保には相当数の金融庁幹部や職員が天下っている可能性があります。従ってBM不正の根っこは金融庁の腐敗にあると考えられます。