広島買収事件の検事取り調べは証拠隠滅罪?
河井克行元法相が実刑となった2019年参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件で、東京地検特捜部の検事がお金を受取った町議・市議・県議に、「お金は買収の意図だと分かっていたと認めれば起訴しない」旨を示唆して認めさせていたと思われる録音テープが存在していることが明らかになりました。
それまでの選挙を巡る買収事件では、受領した議員は受領した資金は政治資金であり買収の意図はないと言い張るの通常でしたが、河井事件では多くの受領した議員が現金は買収の意図だと知って受け取ったと認めて、裁判でも証言しました。このことから検察とお金を受領した議員の間で今回のような取引があったことは容易に想像されました(2022年1月31日のブログ「広島選挙買収事件、起訴相当議決は検察のシナリオ通り」参照)。私の関心は、取り調べ検事がお金を貰った議員に不起訴と”思わせる”どのような発言をしたかでした(「不起訴にする」との直接的な言葉は使っていないはず)。河合事件の場合、これまでの例に依ればお金を貰った議員は殆ど有罪になっていますから、検察が不起訴にしても検察審査会で起訴相当議決がなされる可能性が大でした。この場合、略式起訴か正式の裁判になり、正式な裁判になれば、目論見と違った議員は検察から本件報道のような発言があったと証言することは容易に想定できます。ただし検察としては全員不起訴にして約束は守っていることから、このような経緯を持ち出す議員はいないと想定していたのかも知れません。
議員の証言によると検察の不起訴を匂わせる発言は次のようなものです。
「全面的に認めて反省していることを出してもらい、不起訴やなるべく軽い処分にという風にしたい」
「地方議員を追い込むことが目的ではない」
「あなたには迷惑をかけないから協力をしてくれ」
「陣中見舞い(との趣旨)を認めるので協力してほしい」
「協力してくれれば正直者が馬鹿をみることは絶対にない」
「このまま(否認)だと河井さんと沈んでいく」
「ターゲットは河井夫妻。あなたは大丈夫です」
これを見るとやはり不起訴と言う言葉は使っていません。検察官としては「不起訴にすると言った覚えはない」と言い張ることも可能な言葉使いとなっています。しかし第三者が判定すれば不起訴を匂わせて認めさせたということになると思われます。この場合検察官はどういう罪になるかというと証拠隠滅罪になるようです。
刑法第104条
他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
結局2010年に起きた大阪地検特捜部検事証拠改竄事件と同じ構図です。しかし今回の事件の場合、担当した検察官は正当な取り調べ手法と考えていたかも知れません。それは2018年11月に同年6月から使用が認められた司法取引の手法を使いカルロス・ゴーン日産会長を逮捕していたからです。司法取引の考え方は、巨悪を逮捕するためには小悪は見逃しても良いというものであり、選挙買収事件にはぴったりです。ところが司法取引は組織犯罪など使える犯罪が限定されており、選挙買収事件には使えません(国会議員が嫌がってわざと対象から外したと考えられます)。そこで司法取引の主旨からギリギリセーフのラインを狙って本件取り調べに至ったと考えられます。ゴーン逮捕は特捜部の暴走であり(ゴーンが実際に貰った報酬は約10億円であり、有価証券報告書不実記載とされた約20億円ではなかった。それにこんな軽微な事案で日産の屋台骨を支える経営者を逮捕するのは行き過ぎ。司法取引を初めて使ったと言う実績作りのための逮捕だったと言ってよい)、今回の司法取引まがいの取り調べもこのような体質を持つ特捜部の暴走と言えます。
本件については最高検が調べると言うことですが、最高検も同じ穴の貉であり、公正な取り調べは期待できません。たぶん「不起訴は意図してなかったが、議員がそう採ったとしたら今後言葉使いを考えなければならない」と表明してお仕舞になると思われます。日本の検察は頭から腐っていますから、自浄作用は期待できません。