法学部の定員を半減してIT学部に振り替える

1990年初めのバブル崩壊から日本経済が30年以上低迷している原因の1つは、輸出できる工業製品が少なくなっていることです。代表的なものにテレビ、半導体、船舶などが挙げられますが、自動車を除きほとんどの製品が輸出を減らしています。そして日本にとって代わったのはお隣韓国であり、中国であり、台湾です。これらの国は日本を目標にして、追いつき、追い越して行きました。この最大の原因は、円高を原因として日本政府が経済政策を輸出中心から内需中心に転換したことが挙げられます。明治維新以降日本は、欧米から工業技術を導入し、資源を輸入し加工して輸出する輸出立国を目指して来ました。資源が少ない日本としては当然の政策でした。これは円高になったとしても放棄できない政策だったのは自明なことでした。これを放棄したところに日本の最大の間違いがあります。内需中心に転換した結果、工業製品は国内向けに開発され、ついでに輸出されることになることから、海外で売れるはずがありません。その結果メーカーはどんどん売上を落とし、社員の待遇も悪化して行きました。それにつれ大学の理工系進学希望者は減少し、優秀な学生は行かなくなってしまいました。このようにしてメーカーの国際競争力は落ちて行ったのです。

一方では1990年までに輸出で稼いだ資金が円高で価値が膨らみ、金融資産は大きくなりました。その結果この金融資産を運用する金融産業は巨大化し、社員の待遇が上がりました。それにつれ優秀な学生が理工系学部から金融企業に就職しやすい法学部、経済学部に移って行ったと思われます。

ここで不思議なのが大学の文系学部を見ると未だに多くの大学で法学部の定員が最も多いことです。例えば東大を見ると文科1類(法学系)400名、文科2類(経済学系)350名ですし、京大は法学部330名、経済学部240名です。法学部は法曹や公務員向けの教育内容ですが、卒業者の大部分は民間企業に就職しています。民間企業なら法学部卒より経済学部卒の方が有益ですが、これまで民間企業は大学教育に職業教育を求めておらず、学部不問で採用していました。そのため法学部は潰しが効く(公務員にも民間企業にどちらにも行ける)として文系進学者の第一選択学部になっていました。

しかしそろそろこの慣習も終わりを迎えようとしています。民間企業がジョブ型採用を増やしていることから、法学部卒では民間企業への就職が難しくなると思われます。この結果法曹や公務員志望者以外の人、即ち民間企業に就職する人は法学部に行っても仕方ないことになります。

こう考えると法学部の定員を大きく減らす時期に来ていることが分かります。少なくとも半減が必要です。その結果法学部に行けなくなった人たちはどこに行けばよいかと言うと、1つは経済学部の定員を増やすことが考えられます。経済学部で会計や取引実務を学ぶことは民間企業に就職する上で大変有益です。

もう1つは、今要員不足が深刻になっているIT系学部の定員を増やしそこに進学することです。法学部進学者は論理的思考力がある学生が多く、IT業務とは親和性があります。特に国立大法学部の場合数学が受験科目になっていることから、IT業務で必要になる情報数学も苦にならないと考えられます。こうして法学部の定員を半減し、その分IT学部の定員を増やせば、毎年1万人を超えるIT学部卒業者が増加し、IT要員不足の解消に役立ちます。

ちなみに文部科学省の2021年にまとめた統計によれば、主要国の学部の学位取得者に占める理系割合は、英国が45%、韓国とドイツは42%、米国は38%であるのに対し、日本は35%に留まっており、この改善にも貢献します。