司法試験に見る北大・東北大・九大の旧低大化
11月8日、2023年度司法試験の合格者が発表されました。今年の合格者数は1,781人で、例年の1,500人台から大幅にアップしています。法科大学院別に見るとベストテンは次の通りです。
京都大 188人
慶応大 186人
東京大 186人
早稲田大 174人
一橋大 124人
中央大 90人
大阪大 78人
神戸大 71人
名古屋大 42人
同志社大 29人
大学の所在地を見ると東京5、関西4、名古屋1になっており、いずれも経済規模が大きい地域です。この原因は優秀な学生が集まっていることと同時に、弁護士の人数が多く職業として身近であることが影響しているように思われます。これにより北大(28人)、東北大(25人)、九州大(22人)という旧帝大の低迷も説明できます。
そうだとしても旧帝大である北大、東北大、九大の合格者低迷には問題があります。確かにこの3大学がある都市(札幌市、仙台市、福岡市)では、この合格者数の弁護士が供給されれば十分であり、地元弁護士の中ではこれでも多過ぎるという声もあると思われます。それくらい弁護士ニーズが少ないのも合格者数が少ない原因の1つだと思われます。しかし東京、京阪神、名古屋が合格者数に見合うだけの弁護士ニーズがあるかというとそれはないと思われます。弁護士の中には年収200~300万円の人もいると言われており、弁護士開業や弁護士事務所に所属するのをあきらめて会社員弁護士になっている人も多いと思われます。このように合格者の多い東京、京阪神、名古屋では合格後も激しい生存競争が繰り広げられていると思われます。北大、東北大、九大の合格者数が低迷する最大の原因は、このような競争環境がないことだと思われます。例えば東京では、東大、一橋大、早大、慶大、中大が激しい合格者数競争を繰り広げていますし、京阪神では、京大、阪大、神大が同じく激しい競争を繰り広げています。その点北大、東北大、九大は競争相手がなくお山の大将状態です。それでも同じ状態である名大は合格者を伸ばしており、これだけが原因ではないことが分かります。2018年を見ると名大の合格者は29名で九大と同数(北大23人、東北大15人)ですが、2023年には42名と13名も増やし(前年比では28人増加)、上位グループを伺う勢いになっています。北大、東北大、九大、名大の法学部は偏差値的には同レベルであり、学生の学力はほぼ差がないと考えられます。また地域にライバル大学がない点も同じです。ただ名古屋が一番大企業が多く弁護士ニーズは多いかも知れません。しかし名大の合格者が大きく増えたということは、名大法学部と法科大学院が司法試験に向けた対策をしたためと考えられます。というのは、今年は法学部3年次修了で法科大学院に進学でき、大学院在学中に司法試験を受験できるようになった初年度であり、名大は法科大学院在学生が20名も合格している(北大15名、東北大10名、九大8名)ことから、法学部1年次から司法試験のための教育に力を入れ始めたと考えられます。合格者上位法科大学院は在学生合格が約半数を占めており、司法試験合格の決め手は法科大学院教育ではなく法学部3年間の教育・訓練になっています。これまで東大法学部では優秀な学生は学部在学中に予備試験経由で合格しており、今回法学部3年終了で法科大学院に進学でき、法科大学院在学中でも司法試験を受験できるようにしたのは、この実態に合わせたものと考えられます。
これが分かると北大、東北大、九大法学部および法科大学院がやるべきことが浮かび上がってきます。それは法学部入学時点で法曹志望者に対して3年修了後には司法試験に合格できるような専門コースを設けることです。また答案添削や口頭試問のための組織も整備する必要があります(合格者の多い大学にはOB弁護士による答練会が多い)。東京や京阪神には司法試験予備校がいくつかありますが、この3大学がある都市にはないと思われるので大学が用意する必要があります。そんなこと大学がやることではないと言っていたら、名誉ある旧帝大が旧低大と揶揄されることになりますし、卓越大学の認定にも影響すると思われます(司法試験の合格者数から考えれば東北大を卓越大に認定したのは間違いだったということになる)