ダイハツ不正はトヨタの未必の故意
ダイハツ工業の認証試験不正を調査した第三者委員会が20日、報告書を公表しました。その結果、新たに書類の虚偽記載など174件の不正を確認し、不正があった車両は従来の6車種から、トヨタ自動車など他社ブランドを含め64車種に拡大しました。不正は1989年から行われていたということです。不正の内容については、左側の衝突試験しかしていないのに右側の衝突試験もしたと架空の試験結果を記載した、本来は衝突時に自動で作動するはずのエアバッグにタイマーを仕込んで作動させるようにしたなどが上げられています。これを見ると認証試験が形骸化していたことが伺えます。
この原因について第三者委員会は、短期間の強引な開発計画にあるとしています。開発期間が短いため、認証試験を通らないと開発期間を超過し、開発の失敗という評価になるため、認証試験部門はこれを避けるため合格したような書類を作成するしかなかったようです。
このようにダイハツが短期開発至上主義に走ったのは、ダイハツが2016年8月にトヨタの完全子会社となった結果、トヨタにはできない短期開発、低コストによる車造りの役割がトヨタグループにおけるダイハツの使命となったからです。それをダイハツの経営者や幹部が強く意識し、開発期間の超過は許されないという企業文化を作ったものと思われます。認証不正は1989年からあったとなっていますので、ダイハツではトヨタが出資(1998年、51.2%)する前から不正が行われていたことになりますが、トヨタの完全子会社によってこれが拡大したことになります。
この原因について第三者委員会は、「ダイハツの経営幹部が、短期開発の推進にあたり、その効用にばかり目が行き、不正行為の発生というその弊害に思いが至らず、不正対応の措置を講ずることなく短期開発を推進したことにある」とし、第三者委員会の貝阿弥委員長は「トヨタには責任はない」「ダイハツの自主性を尊重していろいろなことに関与してこなかったのではないか」と述べていますが、これは間違った見解です。
12月22日のベストカーWEBの記事によると、取材に応じたトヨタの豊田章男会長は次のように述べています。
“今回の問題の本質はどこにあるのか”という質問に答えて
「トヨタには、生産ラインで異常があった場合に従業員が”アンドン”(行燈/作業工程で異変を感じた場合の緊急停止装置とそれを知らせる電光掲示板のこと。天井から紐がぶら下がっていて、それを引っ張ることで生産ラインが止まり、工員の目に付く位置に掲示された電光掲示板が赤く点灯することからこの名がついた)を引いてラインを止め、スタッフが集まって原因を究明するシステムがありますが、ダイハツには異常があってもアンドンを”引けなかった”ということだと思います。 ダイハツにも、制度としてはそういう機能があると思うのですが、本当にアンドンを引っ張ってラインを止めると叱られてしまう、そんな環境にあったのではないかと想像します。トヨタでも、わたしが入社した頃はそんなところがありました。何かあったらこれを引け、と言われたので引いたら叱られた。だからこれは、上司次第なんだと思います。」
*これは生産工程での話であって、ダイハツで問題になっているのは試験不正であり別問題。たぶん生産工程はそう違わないはず。目で見てわかる部分はトヨタの指導が行き届いていると思われる。
「わたしがトヨタ自動車の社長になって、アメリカでリコール問題がおき、安全がいかに重要かを痛感しました。そして、それまでの”量”や”原価”を重視したクルマづくりを改めました。優先順位を、(1)安全、(2)品質とし、(3)量や(4)原価はその下と位置づけ、従業員に徹底しました。安全や品質を最重要視することは、自動車会社として当たり前のことなんです。そういう当たり前のことを当たり前にするためには、経営陣が従業員としっかりと向き合うことが重要なんだと思います」
豊田会長の発言で重要なことは、アメリカでリコールが起きた後トヨタはそれまでの”量”や”原価”を重視したクルマづくりを改め、優先順位を(1)安全、(2)品質とし、(3)量や(4)原価はその下と位置づけ、従業員に徹底したということです。その結果当然トヨタの開発期間は伸び、コストは上昇することになります。この思想はトヨタグループ全社に適用されるべきなのですが、トヨタ本体以外の企業、例えばダイハツや日野自動車には適用されなかったことになります。というよりもこの原則の適用によりトヨタでは作れなくなった車の開発をダイハツに押し付けているのです。その結果どういうことが起きるかは容易に予測できます。トヨタがアメリカで経験したような安全性の問題がダイハツで起きるということです。これはロジカルな思考が身に付いたエンジニアなら誰でも分かります。要するにトヨタの幹部はダイハツで将来安全・品質上の問題が起きるであろうことを予測していたことになります。これを放置していたということは、刑法で言うところの未必の故意(起きるかもしれないがそれはそれで仕方ないという意識)であり、ダイハツの不正に対してトヨタには直接的責任があることになります。