地方は工場があるメーカーの本社を誘致する

東京一極集中が止まりません。国立社会保障・人口問題研究所の予測によると、2050年の日本の人口は1億486人で、2020年の1億2,614人と比べて2,128万人、約17%減少します。その中で東京のみが2.5%の増加(2020年1,404万人→2050年1,440万人)する予想です。これは東京23区に政府の官庁や企業の本社が集中していることが最大の原因です。政府の官庁が首都に集中するのはどこの国も同じであり仕方ないですが、これだけ企業の本社が首都に集中しているのは日本くらいではないかと思われます。東京は首都であり、かつ経済の中心地でもありますから、金融やサービス産業の本社が集中するのは仕方ありません。しかし東京には大きな工場は殆どないことから、メーカーの本社まで集中する理由はないと思われます。米国の場合だと首都はワシントン市で、経済の中心はニューヨーク市であり、政府の官庁はワシントン市に集中し、金融機関やサービス産業の本社はニューヨーク市に集中していますが、メーカーの本社がニューヨーク市にある大企業は少ないように思われます。私が調べたところアルミニウム製造販売大手のアルコアぐらいです。

やはりメーカーは主力工場がある地方に本社を置いていることが多いのではないでしょうか。例えば自動車大手GMは発祥の地であるデトロイトに本社がありますし、ボーイングはシアトル、アップルはカルフォルニア州クパチーノという町にあります。このようにメーカーの本社は主力工場や開発拠点と一緒の場所にあることが多いように思われます。日本でもトヨタは発祥地で開発生産の中心である愛知県豊田市にありまし、京セラやニデックは同様な理由から京都市にあります。

以前は地方で大きくなったメーカーは本社を東京23区に移すことが多かったですが、最近この傾向が変わってきたように思われます。例えばYKKは本社機能の大部分を東京から黒部市に移転しましたし、オリンパスは今年4月に新宿からから八王子の開発拠点に移転しますし、富士通も2024年9月に汐留から川崎に移転すると発表しています。外資系では日本ミシュランタイヤが新宿から生産開発拠点がある群馬県太田市へ移転し、日本ボッシュが今年渋谷区から開発拠点がある横浜市都筑区へ移転する計画です。このように本社機能を東京23区から関東周辺都市や地方に移転するメーカーが増えているように思われます。

私も大学卒業後メーカーに入社し東京区内の本社で勤務しましたが、主力工場は神奈川県や栃木県にあり、工場と本社で雰囲気が全く異なることから、メーカーに入った感じがしませんでした。そんな本社勤務者が経営に当たり事業計画を作成するため、工場や開発部門の実態と乖離することになります。これを防ぐには、本社は主力工場や開発拠点におくのが良いように思われます。

日本の名門企業の1つである東芝は業績不振に陥り、優良部門を切り売りし、ファンドなどに翻弄されて来ましたが、これは本社を浜松町に置いていたことが少なからず原因となっているような気がします。あんなところに毎日通っていたら、メーカーであることを忘れてしまいます。NECや三菱自動車でも同じです。日立製作所はお茶の水から茨城県日立市に、三菱重工は大手町から航空宇宙部門がある愛知県に本社を移転するのが成長戦略のように思われます。

こういう視点から今後東京23区にあるメーカーの本社が地方の主力工場や開発拠点がある場所に移転することが考えられますので、その地方の自治体は誘致活動を行うのがお勧めです。