公務員の賃上げは減らした人数分を原資にする

人事院は毎年8月頃内閣と国会に対して公務員の給与や賞与、勤務条件などに関する改善事項をまとめた勧告を出しています。この中で最も重要なのが給与、賞与の引き上げに関する勧告です。昨年は、月給を平均3,869円(0.96%)、賞与を0.10カ月引き上げるよう勧告しました。この勧告は大体完全に受け入れられ、実施されます。

ここでいつも思うのは、勧告書の中で財源について触れられていないことです。人事院も国の機関ですから、支出の増加が伴う場合、財源が一番問題になることは知っていると思います。しかし毎年財源には全く触れないで給与や賞与の引き上げを求めます。民間企業の場合、収入や利益の関係で人件費が決まり、赤字の場合給与引き下げ、賞与支給額の減額もあります。ところが人事院勧告ではこのような検討が全くされていないように思えます。これでは家庭の収入も考えず、「お小遣い上げて」という子供と同じです。日本の予算は支出に比べ収入が圧倒的に不足(2023年度の場合、支出約114兆円に対して収入は約78兆円。不足する約36兆円は国債で賄っている)しており、これを見れば給与や賞与の引き上げは難しいとなります。それでも毎年勧告通り実施されているということは、公務員の給与や賞与は収入ではなく国債が原資になっていることになります。会社で言えば、人件費を借入金で支払っていることと同じです。会社の場合、この用途であれば銀行が融資しないので不可能ですが、日本の場合、国債の発行については銀行の審査部に相当する機関がないので、可能です。しかしこれでは最終的に増税が必要となりますので、国民の多くは納得できません。

では公務員の給与や賞与の引き上げが出来なくなるかというと、そうではありません。現在政府はデジタル庁を作って行政のデジタル化に注力しています。最近マイナンバーカードの使用に当たって不具合が大量に発生し、国民にデジタル化へのアレルギーが生まれていますが、これを乗りきれば行政のデジタル化が加速すると考えられます。そうなれば便利になるばかりでなく、これまで人手に頼っていた業務が機械化されることで、公務員の数が大きく減ると考えられます。またそうでないとデジタル化は片手落ちということになります。その分システム費用が増えるかもしれませんが、人手の減少が大きいはずなので、その分人件費が減少します。これを公務員の給与や賞与の引き上げ原資に充てます。今の予算内容を見ると、人事院勧告で給与や賞与の引き上げを実施するにはこれしかありません。人事院はデジタル庁や各官庁と調整し、デジタル化による人員減少を見ながら勧告内容を考える必要があります。またデジタル庁担当の河野大臣は、デジタル化に伴う官庁および自治体の合理化についても計画を提示する必要があります。