国会議員は検察に生殺与奪権を握られている

1月28日の通常国会開催を前に検察による自民党裏金事件の捜査は終了したようです。4,000万円を超える派閥からのキックバック収入を政治資金収支報告書に記載していなかった安倍派の池田佳隆衆議院議員を起訴、大野泰正参議院議員を在宅起訴、谷川弥一衆議院議員を略式起訴し、安倍派と二階派の元会計責任者を在宅起訴、池田議員の秘書を起訴、大野議員の秘書を在宅起訴、二階会長および谷川議員の秘書を略式起訴としました。注目された安倍派幹部5人(塩谷、萩生田、西村、高木、世耕)については不起訴処分としました。起訴が一番悪質な場合で、在宅起訴は責任が重いか容疑を否認している場合、略式起訴は責任が軽いか容疑を認めている場合だと思われます。「頭悪いね」の発言で話題になった谷川議員は略式起訴ですので、容疑そのものはあっさり認めていたようです。起訴後議員辞職していますので、割と良い人かも知れません。谷川議員の辞職記者会見を聞くと、小者議員の悲劇を見ているようでした。谷川議員が大臣を経験しているなど大物だったら起訴されなかったと思われます。

今回の安倍派の裏金事件では、安倍派が所属議員に対してノルマを超えたパーティ券販売収入のキックバック分については、政治資金収支報告書に記載しないよう指示しており、全員記載していませんから、故意による未記載です。従って政治資金規正法違反は明確です。今回もキックバックを受けた議員は全員、未記載については会計責任者や秘書に任せていたので自分は知らなかったと言っていますが、安倍派が議員に政治資金収支報告書には記載しないよう指示し、その通り未記載になっていますから、これを議員が知らなかったというのは無理があります。従って議員が起訴されず、会計責任者や秘書だけ起訴されるのは法治主義に反します。

なぜこんなことになっているかと言うと、検察と政府が取引をしているからです。検察も行政機関の1つであり、業務に政府の監督が及びますし、幹部人事は政府の承認なしにできません。従って政府の意向は尊重せざるを得ません。しかしこれだけ世の中を騒がせて1人も起訴されなかったとなると検察が信用されなくなりますから、生贄的に小者議員数人が起訴され、大物議員は無罪放免という定石通りの結果となっています。今回は起訴基準を4,000万円に引くことで、検察は起訴を正当化しようとしています。しかし今回の場合、わざと記載していないことおよび繰り返し記載していないことから、悪質で常習性があり

別な起訴基準が必要だと考えられます。それはたぶん検察でも検討し、政府と交渉したと思われます。3,000万円だと二階会長が入ってきますし、2,000万円だと萩生田元政調会や橋本元オリンピック担当大臣、堀井学衆議院議員、山谷えり子参議院議員など数名が入ってきます。1,000万円以上だと更に松野元官房長官や世耕元参議院幹事長など10名以上が入ってきます。このリスト見ながら検察と政府が協議し、起訴される議員が少ない4,000万円に設定したと考えられます。

しかし故意であることおよび常習的であることを考えると1,000万円以下に設定することも可能です。このように国会議員の運命は検察の起訴のさじ加減1つで決まることになります。要するに国会議員は検察に生殺与奪権を検察に握られているのです。その結果、検察の利益に反対する法律(例えば勾留期間を1カ月に制限するなど)は提案できませんし、広島であった検事の不法取り調べ(不起訴をちらつかせて自分に不利益な供述を引き出した)の追及もできません。またこれにより検察幹部人事のフリーハンドも握ることができます。検察に不利益なことをやろうものなら、政治資金収支報告書未記載や選挙運動の違反行為を見つけ出して起訴される恐怖があります。今回の検察の起訴基準の設定(4,000万円)は、多くの議員に恩を売ると共に、「検察を敵に回したらいつでも起訴しますよ」というメッセージが含まれています。バッサリ起訴するよりこの方が検察にとりメリットが大きいと言えます。