TSMC熊本工場建設期間の短さは日本の強み

TSMC熊本工場は2月24日に開所式を迎えます。2月6日には第2工場の建設も発表されました。これを見るとTSMCは日本をとても気に入っていることが分かります。それには3つの理由があると思われます。1番目は補助金の額が大きいこと(第1工場4,760億円、第2工場7,500億円)、2番目は顧客が付いていること(ソニーとトヨタ)、3番目が工場の完成期間が短いこと、です。あまり言われていませんが3番目は日本の強みだと思われます。第1工場の完成までの期間は約1年8カ月です。昼夜兼行で工事を行い完成させました。先進国でこんな短さで完成させられる国は少ないと思われます。TSMCの米国アリゾナ工場は当初熊本工場と同じ時期の生産開始(2024年度中)を計画していますが、2025年前半に延期しています。これは熊本工場では40nm~12nmという旧型に属する半導体を生産し、アリゾナ工場では4nmの先端半導体を生産するという違いも影響しているようですが、日本の方が計画通り進めると言いう文化が高いようです。半導体は技術進歩が速いため、計画通りに生産を始めないと生産予定の製品が陳腐化してしまいます。そのため計画通りに建物が完成し、生産設備を据え付け、生産を開始できるというのは、工場を作るうえで大きなメリットとなります。TSMCの熊本進出に際しては地下水の豊富さが最大の魅力という話がありますが、それは違うと思われます。世界の多くの半導体工場では地下水でなく工業用水を使用しています(ラピダスもそう)し、再利用が進んでいます(TSMCでは再利用率を75%に設定)。それよりも工場建設の工期の短さ、半導体製造装置メーカー・原材料供給メーカー・設備メンテナンス提供企業の存在が重要です。工場建設については鹿島建設、半導体製造装置については東京エレクトロンなど、原材料については富士フイルムなどの存在がTSMCにとって魅力になっています。こう考えると第2工場が熊本になったのは当然だし、今後第3工場以降も熊本になる可能性が高いと思われます。あと熊本に足りないとすれば半導体分野の専門人材だと思われます。熊本大学が養成する専門人材が巣立つのは学部卒で2年後、修士卒で4年後であり、この問題の解消には時間が掛かりそうです。それでも10年経てば人材面でも熊本は魅力的となり、熊本はTSMCにとって台湾と並ぶ生産基地になると思われます。