検事長人事で分かる検察の不人気
政府は2月13日の閣議で、大阪・仙台・札幌高等検察庁の検事長人事を決定したという報道がありました。小山太士大阪高検検事長の後任に上冨敏伸仙台高検検事長を、上富仙台高検検事長の後任に中村孝横浜地検検事正を、神村昌道札幌高検検事長の後任に山本真千子大阪地検検事正を充てるということです。1月26日に自民党裏金事件を政府の要望通りに処理したことから、検察に人事のフリーハンドが与えられ、この時期になったものと思われます。
ここで3人の後任検事長の学歴を見て驚きました。1人も東大卒がいないのです。ヤフコメを見ても「え~、東大卒が1人もいない!」「高検検事長の学歴もたいしたことないな」というコメントが見られました。当然で、高検検事長は中央官庁で言えば次官より上の副大臣クラス(報酬)であり、中央官庁の次官(検察庁では検事正クラス)が軒並み東大卒であることを考えれば、一般人は高検検事長も東大卒が大部分だろうと思います。ところが今回3人の高検検事長が東大卒でなかったことから、誰がなったかということよりもこちらの方に驚いた人が多いと思います。調べていくと8人の高検検事長のうち東大卒は3人のみで5人が他大学出身者(中大2人、早大1人,九大1人,大阪市大1人)であることが分かりました。
これを見ると検察の人材劣化が進んでいることが伺えます。「別に司法試験に合格しているからいいんじゃないの」という見方もあると思いますが、やはり検察幹部は東大や京大卒が望ましいと思います。それは東大や京大卒は正解を求める習性があり、間違った判断が嫌いだからです。従って間違った起訴や不起訴は少なくなくなります。一方他大学出身者はそこまで正解を求める習性はありません。8割あっていれば御の字という人たちです。すべて正解なんて鼻からあり得ないと思っています。従って間違った起訴や不起訴が多くなります。司法試験合格でも300番以内と1000番以降では大違いです。300番以内なら大手弁護士事務所に入れるかもしれませんが、1000番以降ならまず入れないと思います。頭脳(アウトプット)に大きな差があるからです。
司法試験に合格し司法修習を終えると、以前は成績の良い順に裁判官や検察官になっており、検察官は東大や京大卒が多かったようですが、いまでは東大や京大卒は検察官にはならなくなっているようです。
今回の高検検事長人事を見ると60歳前後であり、検事任官時には東大や京大卒も多かったと思われます。それが検察に嫌気がさして弁護士に転じた検察官が多いのではないでしょうか。例えば2018年の日産ゴーン会長逮捕は、その年の6月から使えることになった司法取引制度を最初に使ったという実績作りのために行われたものであり、リーガルマインドのある検察官なら耐えられない出来事です。ゴーン逮捕の理由とされた有価証券報告書への報酬の過少記載(約20億円を約10億円と記載した)は、日産が未払報酬計上していない(日産として約20億円の支払い義務を認識していない)ことや逮捕後も国税が追徴課税していない(国税も約20億円が実際の報酬だったとは認定していない)ことを考えればでっち上げであることは明らかです。また2022年8月東京オリンピック・パラリンピック贈収賄事件で同組織委員会非常勤理事の高橋治之氏が逮捕されましたが、これも出鱈目な逮捕です。高橋氏は常勤ではなく数カ月に1度の理事会に出席する、あるいは組織委員会事務局の相談に乗る立場であり、贈収賄の首謀者にはなりえません。贈収賄は公務員と言う身分に基づく犯罪であり、事務局幹部しか首謀者にはなりえません。それが事務局幹部は誰も逮捕せず非常勤理事を「みなし公務員」と屁理屈を付け逮捕しています。なぜこんな無茶なことをするかと言うと、ゴーン不当逮捕に行きつきます。ゴーン逮捕についてフランス検察は不当逮捕であるとして、日本の検察に捜査協力しませんでした。そんな中2022年3月に有価証券報告書への不実記載を指揮したとしてゴーンと一緒に逮捕された元日産取締役ケリー容疑者への判決があり、容疑8件(8年分)のうち7件が無罪、直近の1件が有罪となりました。1件は有罪ですが7件が無罪であり、1件の有罪は検察の顔を潰さないために裁判所が配慮したものと思われます。要するにゴーン逮捕は冤罪だったいうことです。そんな中フランス検察がゴーンをフランス法違反(ベルサイユ宮殿での結婚式費用をルノーに負担させたなど)で国際指名手配したことから、ゴーンはフランスでも犯罪者となり日本の検察は救われることとなりました。これに恩義を感じたゴーン逮捕を指揮した日本の検察官が、フランス検察が捜査していた東京オリンピック・パラリンピック招致に関する贈収賄事件に関連する事件として東京オリンピック・パラリンピック運営上の贈収賄事件をでっち上げ、政府から圧力を受けない民間人の高橋氏を逮捕したものと思われます。この検察官は河井克之・案里元議員の選挙違反捜査にも関わっており、検察官の不法取り調べ(不起訴を条件に不利な供述を引き出した)の背後にいます。マスコミはこの検察官を「凄腕」とか「将来の検事総長候補」と持て囃していますが、私に言わせれば検察劣化の象徴と言えます。こういうことから検察の劣化は顕著であり、これは今回の高検検事長人事で見て取れます。
尚、今回札幌高検検事長に山本真千子大阪地検検事正が就任しますが、祝福したいと思います。山本氏は森友事件を大阪地検特捜部長として指揮した検事です。結果は取引関連議事録の偽造を指示した財務省の佐川理財局長を不起訴としており、マスコミでは政府の圧力に屈したと批判されましたが、私はよくやったと評価していました。それは不起訴と引き換えに偽造文書一切を公開させており、裁判と同等の結果をもたらしています。政府からの指示は「佐川局長は不起訴とすること」だったと思われますが、頑張って偽造文書の全面公開を勝ち取っています。当時は安倍政権絶頂期で菅官房長官の下80歳を超える元警察官僚杉田官房副長官が人事権をちらつかせて検察との交渉に当たったと思われ、検察に勝ち目はありませんでした。偽造文書の全面公開は山本特捜部長の熱意を感じ取って検察幹部が頑張った結果だと思われます。最近自民党裏金事件を捜査した東京地検特捜部が裏金実体を全く公開しなかったのとは対照的です。こういう人こそ報われるべきであり、札幌高検検事長就任は喜ばしい限りです。一年後は大阪高検検事長だと予想します。