JR九州が肥薩線復旧に同意なら古宮社長は辞任でしょう

2020年7月豪雨で被災したJR肥薩線について、熊本県とJR九州は3月27日に鉄道復旧で基本合意するという報道です。これはJR九州古宮社長のこれまでの発言からは考えられないことです。古宮社長は、昨年11月30日の記者会見で、肥薩線復旧に関して熊本県側の対応がまとまったことに対するJR九州の姿勢を問われ「国の金を200億使って乗客が毎日ウン十人しか乗りませんでしたというのが本当にいいのか。我々は持続可能性、肥薩線を今後どうしていくのかというのが必要じゃないですか」と発言しました。これは熊本県で肥薩線復旧問題を担当する石橋副知事が「肥薩線の日常利用は極めて少ない」と述べているようにクリアするのがほぼ困難な課題であり、JR九州は肥薩線復旧に応じないことを示唆したと考えられました。

その後今年の2月13日、熊本市で開かれたと熊本県とJR九州および国交省の検討会議でJR九州の松下琢磨総合企画本部長は「現状の復興方針案では、持続可能性の確保ができていない。慎重に議論し、それぞれが納得する形で決定することが大切だ」「観光には波があり日常的な利用が不可欠。観光振興と2本柱で検討してほしい」「観光振興策については、肥薩線の復旧時点で観光施設など実現できる状態まで進める必要がある」と述べていることから、更にクリアすべきバーが上がったと考えられました。

こんな中蒲島知事は今年2月16日の県議会で「クリアすべき課題はあるものの、これまでの鉄道復旧に対する慎重な姿勢から一歩前に進んだ方向性が示された」

「私の任期は残り2か月となります。任期中に鉄道復旧に向けた基本合意ができるよう全力を尽くして参ります」と述べたことから、蒲島知事には何か秘策があるとも考えられました。秘策としては、熊本県の「新大空港構想」有識者会議のメンバーであり、蒲島知事と親しいと思われるJR九州石原進特別顧問を通じて、JR九州古宮社長の姿勢を転換させることが考えられました。これが有ったかどうかは分かりませんが、古宮社長のこれまでの意志と反する動きとなっていることから、政治的動きがあったものと予想されます。

JR九州は1987年国鉄を分割民営化して誕生しましたが、JR北海道・JR四国と共に事業収益だけでは経営困難として国から3,877億円の経営安定化基金を与えられ、その運用収入で事業の赤字を補っていました。即ち、鉄道事業と基金収入で経営が成り立っていました。鉄道事業は大幅な赤字(100億円以上)でしたが、不動産事業や流通小売り事業を強化し、その赤字が縮小したことから、ウルトラCが行われました。それは国から与えられた経営安定化基金3,877億円を使い九州新幹線の鉄道施設のリース料(鉄道施設は独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の持ち物)を前払い(2,205億円。年間102億円)、長期借入金を返済(800億円)、鉄道投資に充当(872億円)して年間の経費を減らして黒字化し、上場することでした。これは2016年10月に実現しますが、経営安定化基金をリース料前払いなどに振り替える特別措置がなければ、JR九州は赤字であり上場は実現していません(これがなければ九州新幹線は今でも赤字)。従ってJR九州の上場は極めて政治的な手法で実現したことになります。この上場実現の肝は経営安定化基金3,877億円をリース料前払いなどに振り替えることを政府に認めさせたこと(本来なら基金は国に返還)であり、石原現特別顧問や唐池現取締役相談役が重要な役割を果たしたと思われます。この2人の影響力は今でも強いものがあり、古宮社長の意志を覆させる力があると考えらます。従って昨年の記者会見で肥薩線復旧は利用者が少ないからあり得ないという大見得を切った古宮社長が態度を変えるとすれば、この2人からの影響しか考えられません。

本件については、報道後蒲島知事が「合意に目途が立った事実はない」と述べ報道を否定しましたが、これはJR九州の社内手続きに配慮した発言であり、合意の方向に進んでいたのは間違いないと思われます。

これが事実なら、今後JR九州の社風が悪化する転換点になると思われます。JR九州の特徴は社風がよいことです。それは九州新幹線に乗り乗務員の社内アナウンスを聞けば分かります。心のこもったアナウンスをしており、乗務員の善良さがよく表れています。JR東日本や西日本のアナウンスとは大違いです。これはJR九州の社風の反映だと思われます。善良な社風は、JR九州には経済合理性に反する行動はない(不合理な意思決定はしない)という社員の安心感から出来上がっていると思われ、それがよく表れていたのが日田彦山線の復旧に関するJR九州の姿勢でした。JR九州は日常利用での黒字化は困難として日田英彦山の鉄道復旧には頑としてお応じませんでした。その代わりBRTでの復旧を提案し、運行を実現しています。日常利用での黒字化が困難な点は肥薩線も同じであり、肥薩線の鉄道復旧は経済合理性からは出てきません。もしJR九州が今回肥薩線の鉄道復旧に応じれば、社内意思決定システムが経済合理性から政治的意思決定もありに変化し、社員に混乱が生じる(安心して仕事ができない)ことになります。

これは将来への影響としても、社長として4カ月前に発言した内容と反対の意思決定をすることになる古宮社長の辞任は避けられないと思われます(こんな社長誰も信用しない)。

尚JR九州の合意報道が3月20日になされたのは、3月24日の熊本知事選投票を意識したものと思われます(肥薩線復旧を推進した蒲島知事の後継者である木村氏の当選を後押しする狙い)。