紅麹事件は安倍首相の負の遺産
3月29日現在小林製薬の紅麹原料を含む機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」を摂取していた人で、腎疾患で死亡した人の数が5人になったという報道です。
紅麹は、主に蒸した米に紅麹菌を混ぜ入れ発酵させた米麹で、古くから発酵によって生まれた赤い色素を食品に活用して来ました。赤い色素以外にもGABA(γ-アミノ酪酸)やモナコリンKなど高い有効性が実証された機能性成分が含まれていることが分かっていたということです。GABAは血圧低下・リフレッシュ効果が、モナコリンKはコレステロールの抑制作用があることが科学的に立証されており、決して正体不明の怪しい物質ではないようです。特にモナコリンKは、1973年に三共の遠藤章氏によって発見されましたが、これを医薬品(商品名ロバスタチン)として発売したのは米国メルク社でした(ただし紅麹ではなくコウジカビから分離)。遠藤氏の名前は良くノーベル賞の候補として挙がっていますから、如何に画期的な発見だったかが分かります。
遠藤氏は色素以外でも食品で利用できるよう麹菌株の選択を行い、用途を広げていったようですが、紅麹の大量生産技術がないことが普及のネックとなりました。これを解決したのが肌着で有名なグンゼで、国立栄養研究所の辻啓介氏との共同研究で1985年大量生産技術を確立しました(バイオテクノロジー事業に進出)。これにより紅麹は味噌・醤油・パン・菓子などに利用されるようになったようです。そして1996年にトクホの認可を得たことから販売が急拡大し、1998年には売上高が50億円を突破したようです。これをグンゼは、2016年選択と集中の観点から小林製薬に譲渡しました。従って小林製薬の紅麹は、有効性および安全性についてグンゼ時代に国の承認を得ており、問題発生の原因は小林製薬での製造プロセスにあったことになります。
この間1994年に遠藤氏は紅麹が産生する赤色色素の多くに微量ながらカビ毒のシトリニンが含まれていることを発見します。しかし翌年にはシトリニンの含まれない紅麹赤色色素の生産方法を発明し、問題は解決したように見えました。小林製薬で現在問題になっているのは、このシトリニンではなく、プベルル酸という物質ではないかと言われています。プベルル酸は青カビから生成される天然化合物で、抗生物質の特性を持っていて毒性が非常に強いということです。こう見てくると小林製薬がどうしようもない会社ではないことが伺えます。
今回の紅麹問題は、機能性表示食品が野放しになっていることの問題が顕在化したものです。現在世の中には機能性表示食品を謳った食品やサプリメントが溢れており、中には機能性に疑いがあるものもあります。機能性表示食品は特定保健用食品(トクホ)と比較するとその危なさが分かります。特トクホは有効性や安全性について国が審査を行い、消費者庁長官の許可を得ないと発売できませんが、 機能性表示食品は、有効性や安全性について事業者が確認し、その根拠に関する情報等を消費者庁へ届出れば発売できます。手続きの容易さから、最近は機能性表示食品の販売が激増していました。有効性に問題があれば市場から消えるだけですからまだ良いのですが、安全性に問題があれば健康被害が発生します。今回の紅麹の問題は起きるべくして起きたとも言えます。
機能性表示食品制度は、安倍政権だった2013年6月の成長戦略で「健康食品の機能性を表示できる新方策」として導入が決まったものです。トクホの審査が厳しかったため、その緩和を求める業界の要求を安倍政権が聞き入れて設けた制度です。当時から「消費者の利益ではなく経済のための制度であり、安全性を置き去りにしている。」という批判がありました。
この制度の導入については、安倍首相が何かの集会で得意げに発表し、拍手喝さいを浴びる場面がテレビで放映されています。安倍首相は、コロナが猛威を振るっていた2020年5月、アビガン、フサン、アクテムラ、ストロメクトールの4剤について「いずれも日本が見出した薬。別の病気への治療薬として副作用なども判明し、安全性は確認されている。(新型コロナ感染症への)有効性が確認され次第、早期の薬事承認を目指す」と述べ、医薬品の承認にも口先介入しました。これには医薬品の審査に関わる研究者が従わず難を逃れました。安倍首相は斡旋収賄が濃厚な甘利明衆議院議員の捜査に圧力を掛けたり、黒川東京高検検事長を検事総長にするために検事定年に関する法律の解釈を変更するなど、知的レベルが子供並みでしたが、この機能性表示食品制度もその表れと言えます。今回の紅麹事件は、安倍首相の負の遺産と言えます。