木村知事は蒲島前知事の無敵戦略を見習わないと

4月16日、熊本県知事に木村敬元副知事が就任されました。まだ49歳の若さであり、エリート官僚出身であることから、県民の期待は大きいと思われます。木村知事は左手の手首から先がないというハンディを抱えており、これまで肉体的精神的に大変な苦労をしてきたと想像されます。木村知事に投票した人たちは、そこからくる優しさや思いやりの精神にも期待しているように思われます。

そこで気になったのが4月16日の県庁就任式で「野菜を売る人、牛の世話をする人、そうした方々のために全力で頑張るのが私たち県庁職員だと私は思っています」と述べたことです。これは静岡県の川勝知事が4月1日の県職員入庁式で述べて辞職の原因になった発言「毎日、毎日、野菜を売ったり、あるいは牛の世話をしたりとか、あるいはモノを作ったりとかということと違って、基本的に皆様方は頭脳・知性の高い方たちです。」を揶揄した言葉であると思われます。木村知事としては笑いを取るつもりで言ったものと思われますが、この言葉を不快に思った人は多いと思われます。ヤフコメにも「昨日のように他者を揶揄するのは止めたほうがいい」というコメントがありました。ある意味木村知事は川勝知事に近いタイプの人です。左手のハンディを除けば小さいときから成績優秀であり、東京の私立中高御三家の1つである武蔵中高を出て東大法学部、そして総務省、熊本県知事と川勝知事と似たエリートコースを突っ走っています。私は御三家の1つである麻布中高・東大出身者を知っていますが、解けない問題はないくらい頭が良いばかりでなく、育ちがよいせいか性格もよいです。ただしふとした時に知性が悪く出ることがあります。川勝知事や木村知事の今回の発言のようなものです。もし木村知事が1期で終わるとすればこれが原因になると思われます。熊本の一般の有権者とはそんなに接することはないからボロはでないと思われますが、県議会議員と接する機会は多いでしょうから、ふとした発言で県議会議員に反感を持たれることがあり得ます。

この点については木村知事が長く使えた蒲島知事を見習うべきだと思います。蒲島知事の強みは蒲島知事が嫌いな人がいないことでした。なぜそうなったかと言うと、人の悪口を言わないこと、マウントとらないことが要因だったと思われます。蒲島知事の発言は新聞報道やテレビでしか知りませんが、不快な言葉は決して発していません。ある意味平凡な普通の言葉しか発していません。それが聞く人を心地よくしていたと思われます。それとマウントとらないことも特徴です。蒲島知事はハーバート大学ケネディスクール卒で東大法学部教授という誰しもが羨むキャリアであり、会う人と上から目線で接してもおかしくないのですが、これが全くなかったようです。蒲島知事に請われて熊本県立大学理事長を務めた五百旗頭(いおきべ) 眞氏はその前防衛大学長を務めていましたから、熊本県立大学理事長は役不足であり不本意だったようですが、蒲島知事に頼まれたから断れなかったようです。五百旗頭氏は、「蒲島さんとの付き合いは長いが一度も不愉快な思いをしたことがない」と述べています。蒲島知事は県政の重要な課題については有識者会議を設置しましたが、そのメンバーは東大教授など一流の学者や財界人を揃えました。これは蒲島知事が接した人を決して不愉快にしなかった、むしろ心地よくしたことが背景にあります。なぜそんなことができたかと言うと、蒲島知事は本当に自分は頭が良いと思っていなかったからだと思われます。実際蒲島知事は、熊本では山鹿農高出身で山鹿農高では220人中200番くらいだったと言っていますので、頭(成績)は良くなかったようです。ハーバードを出ていますが、これは学力で入ったのではなく周りの人の推薦だと思われます。そのため本心から周囲の人たちを尊敬し立ててきたものと思われます。ハーバード卒の東大教授から立てられるのですから、相手は悪い気はしません。こうして接する人をファンにして行ったのです。

一方木村知事は蒲島知事とは真逆であり、相手が頭が良ければ良いほどライバル心が擡げる方だと思われます。そうなるとマウント合戦になり、負けなかったとしても相手には嫌われます。こうして長い間に敵を増やして行きます。

こう考えると木村知事は、蒲島知事の敵を作らないという無敵戦力を踏襲すべきだと思われます。「智に働けば角が立つ」は夏目漱石の小説草枕の冒頭の言葉ですが、草枕は熊本県玉名市にある小天(おあま)温泉が舞台となっており、木村知事が熊本で名知事になれるかどうかのキーワードになりそうです。