「ゴーン被告報酬、西川社長サイン」なら西川社長も同罪

3月22日の共同通信に、「ゴーン被告報酬、西川社長サイン」という見出しの元、「日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(65)らが起訴された役員報酬過少記載事件で、同社の西川広人社長が東京地検特捜部の調べに、有価証券報告書に記載されなかった報酬の支払い名目を記した文書にサインしたと認めていることが分かった。」「ゴーン被告と(前代表取締役の)グレゴリー・ケリー被告との間で話ができていると思い、深く考えなかった、と話している。」という記事がありました。これは大変なことを意味しています。もし有価証券報告書虚偽記載罪が成立するとすれば、これまでゴーン容疑者とケリー容疑者を悪者にしてきた西川社長は、共犯ということになります。ゴーン容疑者は自らの報酬を年間約20億円と決め、約10億円を実際に受領し、有価証券報告書に記載しましたが、残りの約10億円についての受領方法については、ゴーン容疑者と西川社長の間で取り決めた文書があったと言う話ですので、有価証券報告書虚偽記載罪で逮捕・起訴されるのなら、西川社長も一緒でなければならないはずです。これを司法取引で、西川社長だけ免除することは許されません。有価証券報告書虚偽記載罪は形式犯であり、西川社長の供述を得なくても証拠は確保できます。もし供述を得るために司法取引を行うとすれば、ゴーン容疑者、ケリー容疑者および西川社長以外の社員でなければなりません。ゴーン容疑者と共犯関係にある西川社長を司法取引で逮捕・起訴免除することはできません。ゴーン容疑者とケリー容疑者のみを逮捕・起訴し、西川社長の刑事責任を問わないというのは、依怙贔屓であり、検察の職権乱用です。

ただし、有価証券報告書虚偽記載罪は成立しません。何故なら、ゴーン容疑者と西川社長がサインした「残りの報酬の支払い名目を記載した文書」が日産との関係で効力を持つためには、会社と取締役の間の利益相反取引として日産の取締役会の承認が必要であり、これがとられていないからです。従って、ゴーン容疑者が残りの報酬を受け取る権利は確定しておらず、有価証券報告書に記載すべき報酬には該当せず、有価証券報告書虚偽記載罪は成立しません。だから、ゴーン容疑者とケリー容疑者の同容疑での逮捕と起訴が不当であり、西川社長が逮捕・起訴されていないことは正常ということになります。問題は、西川社長が同容疑でゴーン容疑者およびケリー容疑者を有罪に持って行こうとしていることです。もし、ゴーン容疑者とケリー容疑者が同容疑で有罪なら、西川社長も有罪にならないと刑の公平性がなくなります。

今回のゴーン事件は、証券監督当局より報酬虚偽記載の疑いを掛けられた日産の監査役や取締役が、自身の責任を免れるために、検察に司法取引を持ち掛けたことが間違いの始まりと思われます。(西川社長が検察に供述したという「深く考えなかった。」という言葉が日産の監査役や取締役のレベルを示しています。)その後ゴーン容疑者の脱税や特別背任という大事件にできると踏んだ検察が、証拠が固まらない中でゴーン容疑者とケリー容疑者を逮捕したことが間違いの元でした。

元厚生労働省官僚の村木厚子氏冤罪事件のときも、新聞は検察のリーク情報を一方的に報道し、冤罪作りの共犯の役割を果たしました。この事件後地検特捜部は反省の態度を示し、10年近く隠忍自重してきましたが、新聞は反省の記事1つ書きませんでした。新聞は、今回のゴーン事件でも同じことを行っています。今回共同通信が、日産の西川社長の責任に繋がる記事を書いたことは、新聞のあるべき姿勢として評価に値します。