安倍政権の崩壊が始まったのは昨年の内閣改造から
安倍政権が崩壊の様相を呈しています。コロナ対策でやることなすこと批判されています。
国民にマスクを2枚ずつ配ると発表すれば「アベノマスク」と揶揄され、外出自粛を呼びかけるため安倍首相が自宅で寛ぐ写真をユーチューブにアップすれば「お前は貴族か」と罵倒される有様です。更には、コロナ感染拡大で収入が激減した人を対象に30万円を支給すると4月7日に閣議決定までしておきながら、4月16日になって国民一律10万円支給に変更しました。閣議決定していた事項を変更したのは、前代未聞の出来事です。これは公明党が4月14日に告示された衆議院静岡補選を人質に取り、国民一律10万円支給に切り替えなければ投票しないと迫ったためと思われます。安倍首相はコロナ対策の失策で自民党内からも批判が高まっており、静岡補選で負けたら安倍降ろしが始まるのは確実だったため、この要求を飲むしかなかったようです。一度脅しに屈するとその後要求がエスカレートするのは世の常であり、今後安倍政権は自民党や公明党の要求に翻弄されることになります。
一方安倍政権内でも政権崩壊の兆候が見えます。先ずマスコミでも報道されている通り、菅官房長からが政策決定過程から排除され、安倍首相と溝ができたことが伺われます。また、マスコミへのコロナ対策の説明に窮した加藤厚生労働大臣は、その後コロナ対策担当から外されました。加藤大臣は安倍首相のお友達の1人と言われ、安倍首相が将来の首相候補に挙げた人です。これをこんなにあっさり切り捨てたことに、安倍政権の変化が伺われます。これで安倍政権では確実に2人の重要閣僚が政策実行ラインから外れていることになり、安倍政権は内部崩壊の様相を呈しています。
安倍政権の崩壊の目は、昨年の内閣改造にあります。安倍首相は2期6年の任期を想定しており、3期目は頭になかったと思われます。そこで3期目はおまけと考えて、最後にこれまでお世話になった議員へのお礼や各派閥の意向に沿った組閣を行った様子が伺えます。昨年9月の内閣改造の特徴は3つです。
1つ目は自分に協力してくれた議員を大臣にしたことです。官房副長官や幹事長代理として貢献した荻生田光一文部大臣や首相補佐官として貢献した河井克行法務大臣がこれに当たります。
2つ目は、安倍首相が重視する課題を抱える2つの大臣には、自分が信頼する議員を大臣に充てたことです。先ず全世代型年金制度設計の課題を抱える厚生労働大臣には、お友達で信頼する加藤勝信衆議院議員を据えました。また携帯料金の引き下げとNHK改革の課題を抱える総務大臣には、同じく信頼する高市早苗衆議院議員を据えています。2人とも同大臣経験者で、2度目の就任です。
3つ目は、6月の参議院広島選挙区に2人目の候補者を立て落選に追い込んだ溝手顕正参議院議員が所属した岸田派を融和するため、竹本直一衆議院議員(79歳)をIT担当大臣と北村誠吾衆議院議員(73歳)を特命担当大臣に任命したことです。2人とも高齢で大臣就任後その答弁が問題になっていることから分かるように、能力を評価されての大臣就任ではありません。安倍首相は、このような起用はこれまであまりしてこなかったので、最後の任期という気の緩みが感じられます。
4つ目は、菅官房長官の推薦を多く受け入れていることです。菅原一秀経済産業大臣、重複しますが河井克行法務大臣、小泉進次郎環境大臣は菅官房長官に近く、菅官房長官の推薦に基づく人事を思われます。また武田良太国家公安委員長も福岡県知事選挙で菅官房長官と協力して現職の3選を実現しており(相手は麻生副総裁推薦の新人候補)、菅官房長官推薦かも知れません(二階派推薦かも知れませんが)。
しかし、この菅官房長官が推薦した大臣が相次いで辞任に追い込まれたことから、安倍首相と菅官房長官の間に隙間風が吹き始めた可能性があります。先ず菅原経済産業大臣が公職選挙法違反の疑いを雑誌で報道され、同年10月に辞任します。そして同年12月には、河井法務大臣が6月に当選したばかりの妻の案里参議院議員の公職選挙法違反容疑により辞任しました。河井議員の法務大臣就任は、菅官房長官(と安倍首相)から黒川東京高検検事長を検事総長にせよとの密命を帯びての就任であり、これを知った検察が事前に掴んでいた案里議員の公職選挙法違反容疑の捜査に動き、大臣辞任に追い込んだものと思われます。その後安倍政権は、今年2月の黒川検事長の定年を検察庁法の解釈変更という横紙破りの手段を用いて延長したのは衆知の通りです。この件は、マスコミおよび国会で激しく批判・追及されました。安倍首相はこの前から政府主催の桜を見る会に安倍後援会の会員を多数招待していたとして、公費を使った選挙運動として批判・追及されていましたので、かなり堪えたと思われます。また桜を見る会を巡る説明で菅官房長官が説明に窮する場面が多かったことも安倍首相の心証を悪くした可能性があります。
こうして安倍首相は、「菅さん、何やってんだよ」という気持ちになって行ったように思われます。
そして安倍首相と菅官房長官の離反がはっきりし始めたのは、3月下旬頃からだと思われます。この頃東京オリンピックの延期が決まりましたが、コロナ感染者数の増加も目立ってきて、政府の対応の遅さが批判されました。アベノマスクの揶揄や「お前は大様か」の罵倒が起きたのはこの頃です。
これらは安倍首相と今井補佐官および佐伯秘書官が提案したものと言われており、安倍首相とこの2人で政策を決定していると言われるようになります。ここに菅官房長官が関与していないのは明白でした。
昨年9月の内閣改造の際のもう1つの重要な出来事として今井秘書官が補佐官に昇格したことがあります。秘書官は国家公務員の身分ですが補佐官は特別国家公務員で、序列も大臣の下、副大臣の上となるようです。補佐官と言えば、米国大統領の補佐官が有名であり、ニクソン大統領およびフォード大統領のキッシンジャー補佐官、カーター大統領のブレジンスキー補佐官、ジョージ・ブッシュ大統領のライス補佐官の名前が浮かびます。共に大統領の側に仕え、政策決定に関与しました。安倍首相が今井氏を秘書官から補佐官にしたときには、両者にこの補佐官のイメージがあったものと思われます。それが菅官房長官が推薦した大臣人事が破綻したことから、安倍首相に菅官房長官不信が生まれ、元々考えていた補佐官政治に移行したものと思われます。
この結果、安倍首相の味方は今井補佐官と佐伯秘書官だけとなり、多くの大臣の心が離れていると思われます。そう考えると補佐官人事が安倍政権の崩壊を招いた端緒と考えられます。